私の視点 観光羅針盤
政府はこのほど「地域未来戦略」の方向性を示し、全国を10ブロックに分け、半導体やAIなど17の戦略産業を集中的に育成する方針を打ち出した。特徴的なのは、それぞれの地域が持つ産業の強みを改めて整理し、投資や人材を集中させようとしている点である。
北海道の半導体、東北の先端素材・エネルギー、関東の航空、半導体、北陸の工作機械、中京圏の自動車、近畿の次世代モビリティ、中国・四国の造船・海事産業、九州の半導体・宇宙産業、沖縄の医療・情報通信など、それぞれの強みをさらに伸ばそうとする構想だ。
留意すべきは、これらの産業が突然生まれたものではないことだ。地域未来戦略の本質は、新たな産業創出ではなく、各地域で長年培われてきた産業基盤や技術、人材、研究機関とのネットワークといった強みをさらに伸ばそうとする取り組みである。例えば、中四国の造船産業は瀬戸内海の海運の発展を背景に育まれ、中京圏の自動車産業は戦後から続くものづくり文化の蓄積の上に成り立っている。北陸の工作機械や精密機器産業も、高度な技術者集団が地域に根付き発展してきた歴史がある。
観光地域づくりの視点から見ると、この政策は単なる産業振興にとどまらない。世界では産業観光が年間100万人規模の集客を生む例も珍しくない。ドイツのフォルクスワーゲン本社隣接のアウトシュタットは年間200万人超、アイルランドのギネス・ストアハウスは160万人超、ドイツのツォルフェライン炭鉱業遺産群も約150万人を集めている。米国シアトル近郊のボーイング工場見学も人気である。これらは単なる見学施設ではない。自動車、ビール、炭鉱、航空機という産業がどのように地域を発展させ、人々の暮らしや文化を形づくってきたのかを体感できる場となっている。共通するのは、その土地で産業が育った歴史や人々の挑戦を物語として伝えている点だ。
日本でも今後、各ブロックで主産業を担う人材育成は進むだろう。しかし、それだけでは地域未来戦略は地域のものにならない。重要なのは、地域住民が「なぜこの産業がこの地域で育ったのか」を理解し、自ら語れるようになることである。その積み重ねがシビックプライドを育み、地域への愛着や誇りにつながっていく。
産業が地域に定着する過程では、工場見学、企業ミュージアム、研究施設の公開、学校教育との連携、技術体験プログラムなど、産業観光を見据えた設計も求められる。世界の成功事例に共通するのは、技術や製品だけでなく、その地域で産業が発展した背景や物語まで伝えていることだ。日本でも地域に根付く産業の歴史や技術、人材の営みを観光資源として磨き上げることで、新たな産業観光の核となる可能性は十分にある。
これは必ずしもインバウンドのためだけではない。まず地域の人が理解し、誇りを持ち、伝えられる流れこそが重要である。地域未来戦略は、産業を育てる政策であると同時に、未来の観光資源を育てる政策でもある。その視点を持つことが、地域の新たな競争力につながるだろう。
(地域ブランディング研究所代表取締役)




