温泉文化を支える「芸舞妓」 担い手確保へ各地で模索-神戸・有馬温泉


一糸でかつらを見せる、一菜さん(写真右)とすずさん

一糸でかつらを見せる、一菜さん(写真右)とすずさん

 温泉地の楽しみといえば温泉や食事だが、古くから温泉地の魅力に彩りを添えてきたのが芸舞妓の存在だ。地域に伝わる歌や踊りを受け継ぎ、旅人をもてなしてきた芸舞妓は、温泉文化や地域文化の担い手でもある。しかし旅行の個人化や宴会需要の減少などを背景にお座敷は減少。担い手不足も深刻化している。温泉地の芸舞妓文化をどう次世代へつないでいくのか。各地で模索が続いている。

 神戸市の有馬温泉で活動する有馬芸妓は、鎌倉時代の「湯女」を起源とするとされる伝統文化だ。最盛期の昭和30年代には約200人いたとされるが、現在は半玉を含め16人。県内で唯一残る芸妓衆として活動を続けている。

 その中で、有馬芸妓の魅力発信に積極的に取り組んでいるのが有馬芸妓の一菜(いちな)さんだ。兵庫県宝塚市出身で、先輩芸妓たちの踊りに憧れてこの世界に飛び込んだ。芸妓は個人事業主であり、歌や踊り、お座敷での立ち居振る舞いを磨き続けなければならない厳しい世界でもある。一方で、一菜さんはその魅力について「自分の努力次第で収入を得ることもできるし、さまざまなお客さまと出会って勉強させていただける素晴らしい仕事」と語る。

 ただ、お座敷を取り巻く環境は大きく変化した。団体旅行の減少、旅館・ホテルの宴会場の縮小に伴い、大広間での宴会やお座敷の機会は減少傾向にある。若い担い手の確保も容易ではない。

 そうした中、有馬芸妓は活動の場を広げるため、2014年に検番の空きスペースを活用した芸妓カフェ「一糸(いと)」を開業した。現役芸妓の働く場を確保するとともに、一般観光客が気軽に芸妓文化に触れられる場として運営している。

 現在は主に土日に営業し、踊りやお座敷芸を披露。普段使用する日本髪のかつらなども紹介しながら来場者をもてなしている。「お座敷に縁のなかったシニアの女性グループなどには特に楽しんでいただいています。皆さん興味津々でいろいろな質問をされるので、なるべくお答えするようにしています」と一菜さん。近年は平日の昼間を中心にした貸し切りプランも販売。旅行会社による利用も増加している。神戸港に寄港するクルーズ船の外国人旅行者らが訪れ、踊りの鑑賞だけでなく、着物体験や太鼓体験などを通じて日本文化に触れている。

 さまざまな取り組みを進める中、20年からのコロナ禍は有馬芸妓にも大きな打撃を与えた。お座敷は激減し、存続の危機に直面した。

 こうした状況を受け、地元旅館経営者らが同年10月、有馬芸妓による伝統技芸の継承や観光振興を目的に「有馬伝統文化振興会」を設立。観覧無料の「有馬芸妓文化公演会」を定期開催するほか、活動支援や新人育成のための寄付制度「有馬芸妓タニマチ」を創設。地域ぐるみで芸妓文化を支えている。21年に認定が始まった神戸歴史遺産に「湯女を起源とする有馬芸妓文化」が認定されたことで、神戸市のふるさと納税対象事業にもなった。さらに個別の旅館・ホテルが宿泊客の出迎えや見送り、館内イベントなどの仕事を依頼し、芸妓の活躍の場を広げている。

 振興会会長の風早和喜・兵衛向陽閣社長は「有馬芸妓は有馬温泉の歴史文化の大切な存在だ。芸妓衆自身が一生懸命取り組んでくれているが、やはりお座敷が増えるのが一番」と話す。その上で、「団体客があってもコンパニオンを希望するケースも少なくない。旅行会社の営業担当者らにも芸妓によるお座敷の魅力を知ってもらう機会が必要ではないか」と指摘する。温泉地の芸舞妓文化を守るには、文化継承だけでなく需要の創出も欠かせないというわけだ。

 一方、岐阜県下呂市では行政主導による担い手育成に取り組んでいる。市は21年から下呂温泉で芸妓舞妓として活動する地域おこし協力隊を募集。現在2人が活動している。協力隊員はJR下呂駅での出迎えや観光イベントへの出演、地域行事での舞の披露などを行いながら、旅館ホテルでのお座敷にも出演している。

 3年目を迎えた一慶(いちか)さんは岐阜市出身。高校卒業後に協力隊へ応募した。着付けも日本舞踊も未経験だったが、約10カ月の見習い期間を経て芸舞妓としてデビューした。現在はお座敷や観光イベントへの出演に加え、定期的な稽古にも励む。一慶さんは「全くの未経験でしたが、思っていた以上に踊りが楽しく、大変さよりも楽しさの方が大きかったです」と振り返る。さらに「お客さまや地域の方から『踊りが上手になったね』と声を掛けてもらえることが一番のやりがい」と笑顔を見せる。来たこともなかったという下呂市だが、「地域の祭りや文化を大切にしているところはもちろん、地域の人の温かさ、優しさが下呂の良さですね」と一慶さんは魅力を語る。

 地域おこし協力隊の任期は3年。任期終了後は個人事業主として独立することになる。芸舞妓として生計を立てることは決して容易ではないが、一慶さんは「お姐さん方のような芸妓になれるようもっとこの世界を勉強したい。残り1年、地域のためにも頑張りたい」と前を向く。芸妓として独り立ちするまでを支える仕組みとして地域おこし協力隊を活用する例は、下呂だけでなく、秋田県湯沢市の秋田湯沢湯乃華芸妓や山形県の酒田舞娘などでもみられる。

 芸舞妓文化の継承に向けた取り組みは各地で広がる。石川県の山中温泉では、芸妓衆が定期公演を行う常設施設「山中座」が外湯「菊の湯」に併設しており、山中温泉旅館協同組合が運営。席数が180席あり、コンベンションホールとしても使用することで維持管理している。温泉地では最多の芸舞妓を抱えるとされる静岡県の熱海温泉でも芸妓見番を活用した定期公演や体験事業を展開している。

 温泉地ではないが、新潟市の新潟古町芸妓や山形市のやまがた舞子では、企業や地域団体が株式会社を作って育成や情報発信を支え、継承を図っている。

 インバウンドの地方分散や地域固有の文化への関心が高まる中、芸舞妓は温泉地ならではの魅力を伝える存在として再評価されつつある。ただ、芸の継承だけでは文化は残らない。新たなニーズへの対応などによる安定した収入の確保、若い担い手の確保と育成、そして地域全体による支援が不可欠だ。温泉地の歴史と文化を体現する芸舞妓を絶やさぬためにも、一層の理解と協力が求められている。

 【小林茉莉】

一糸でかつらを見せる、一菜さん(写真右)とすずさん

一糸でかつらを見せる、一菜さん(写真右)とすずさん

先輩芸妓衆と踊る一慶さん(写真左)。目指すのはお姐さんたちのような芸妓だ

先輩芸妓衆と踊る一慶さん(写真左)。目指すのはお姐さんたちのような芸妓だ

 
 
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