【ちょっとよろしいですか 180】観光地や宿の離職対策と人材確保に 山崎まゆみ


 日本各地、どの産業でも人材不足の話題は尽きません。もちろん読者の皆さんにとっても、課題のひとつでしょう。

 今回は、そんな皆さんの参考になればと思い、「新入社員の離職対策にはコツがある」とおっしゃる宿の女将の取り組み方、離職させないための温泉地での事例、私からの提案をつづります。

 まず群馬県伊香保温泉「松本楼」の女将・松本由起さんのお話からです。

 株式会社ホテル松本楼は50室の「松本楼」、20室の「洋風旅館ぴのん」、6室の犬連れ専用の宿「Doggyスイートペロ」の3軒を有し、正社員49人、パート60人、計109名のスタッフを抱えます。

 本年度は内定11名の全員が入社したそうです。

 実は2022年以降の新入社員はひとりも辞めていないといいます。由起女将はこんなふうに語ります。

 「12年に新卒を8人採用しましたが、8人とも辞めてしまった苦い経験があります。そこで2013年からエルダー制度を取り入れたところ、離職率は5%という結果が出ました」

 エルダー制度とは、ひとりひとりの新入社員に、必ず面倒を見る社員が付くというもの。それも入社2年目3年目といった比較的年が近い先輩が、新入社員が風邪をひけば、ごはんを届け、精神的に参れば話を聞くといった、まさに会社として公私共にケアする制度です。

 私が感じた大切なポイントは、付く社員を同じ職場から選ぶのではなく、相性が良さそうな先輩を選ぶというマッチングの上手さでしょう。

 「松本楼」では他にも、昇進のチャンスを広げ、意見をすくい上げ、社員同士の交流の場を作るといった丹念な改革もしています。

 兵庫県城崎温泉では、それぞれの宿の入社式を一体化した合同入社式が行われます。新入社員が一堂に会することで顔見知りになるのです。

 その上で、合同入社からそう経たずに任せるのが「夏まつり」の運営です。合同入社式で顔見知りになった直後に、共同で作業をさせることで、仲間意識が生まれ、城崎温泉で働くことの絆となります。

 まさに町全体をひとつの旅館と見立てる城崎温泉ならでは、共存共栄ですね。

 とある温泉地の女将から聞いた話を思い出します。

 「うちは町から遠くてね。若い子たちにしたら、遊ぶ場所がないからね、物足りないのよね。友達もいないしね」

 ホテル松本楼が実施するエルダー制度も城崎温泉の合同入社式も、新入社員が困ったことがあれば相談ができる環境を作るという点で一致しています。

 新入社員に「孤独を感じさせない」のが重要なのです。

 もちろん人材確保をするためには給与のアップや休暇について等、対策は多岐にわたりますが、こと、新卒の社員の離職を防ぐには、心のケアに重きを置くことが最優先なのかもしれませんね。

 さてここからは私の提案です。働くスタッフの受け入れ整備として、観光地・温泉地全体で社員寮を作ること。そこに託児所も併設してほしいのです。

 住居が整っていれば、子供のいる夫妻がそろって働いてくれるかもしれない。ひょっとしたらシングルマザーの受け皿になるかもしれない。まだ淡い憶測ですが、可能性は十分にあると考えています。

 (温泉エッセイスト)

 
 
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