大井川鐵道井川線は、千頭―井川間25.5キロを結ぶ鉄道路線です。井川ダム建設のための資材運搬用の専用線として開業しました。ダム完成後の1959年に、沿線の要望に応えて旅客営業を開始しています。
筆者が乗車したのは10年あまり前です。大井川に沿った絶壁に、貼り付くように線路が敷かれているのが印象的でした。ハイライトは、日本唯一とされるアプト式区間です。機関車を増結して、ぐんぐんと急勾配を登る体験は、他では味わえません。
終点の井川駅は、井川湖の渡船乗り場にも近く、さらなる奥地への旅を予感させます。国内に比類なき山岳鉄道といえます。
ただ、過疎地を走ることもあって、利用者が多いとはいえません。筆者が乗ったときも、アプト区間が終わるとツアーの客が降りてしまい、ガラガラになってしまいました。帰路の最終列車は、筆者1人になってしまったほどです。最近は大井川本線の一部が不通になっていることもあって、利用者はさらに少なくなっているようです。
こうした状況で、大井川鐵道では、7月1日から、井川線の大半の列車を「観光列車化」することを決めました。乗車料金を3500円に設定し、旅行商品として発売する形です。
これまでは全線に乗っても1340円でしたので、大幅値上げにみえますが、沿線住民には格安で乗車できる枠組みも設けます。途中の接岨峡温泉の訪問客の便を図るために、普通乗車券で利用できる列車も、1日1往復設定します。
観光列車化には、否定的な声もあります。しかし、沿線住民の利用者がほとんどいないのであれば、観光客向けに最適化し、相応の料金を取るというのは一つの考え方でしょう。
観光列車で予約制にすれば効率的な運行ができますし、周辺の施設と連携したイベントやサービスもしやすくなります。物販もやりやすいでしょう。
ただ、井川線には、アプト式区間や奥大井湖上駅といった観光資源があるものの、終点の井川駅周辺に著名な観光地があるとはいえません。車両に関しても、野趣的な魅力はありますが、ぜいたくな作りではなく、高額な料金に見合うかは、なんともいえません。
「観光鉄道」として高額な料金を求めるのであれば、他のローカル線にはない付加価値が求められるでしょう。訪れた人が驚くような体験ができるよう、魅力を高めてほしいところです。
(旅行総合研究所タビリス代表)




