「旅行・観光産業は世界GDPの10%」 Trip.comグループが上海でグローバル会議、AI戦略とイノベーション表彰を発表


  Trip.comグループは5月27日、グローバル・パートナー・カンファレンス「Envision 2026」を上海西岸国際コンベンション・エキシビションセンターで開いた。世界78の国と地域から宿泊施設を中心としたサプライヤー(取引先)3,500人以上が出席。全体の9%にあたる315人以上は日本からの参加者だった。

 Trip.comグループのグローバルアンバサダーを務める俳優のジャッキー・チェン氏もビデオメッセージを寄せ、会場を盛り上げた。同グループのジェーン・スン(Jane Sun)CEO(最高経営責任者)は、世界の観光産業が「過去最高水準の旅行需要」「AIを中心としたイノベーション」「パートナーシップ強化」を軸とする新たな成長フェーズへ突入したと説明。また同グループの共同創業者であるジェームズ・リャン(James Liang)会長は、旅行業界の未来を切り拓く先駆者たちを支援するために設立した「Tourism Innovation Awards」の表彰式を行った。

ジェーン・スンCEO「旅行・観光産業は世界で最も成長速度の高い産業」

ジェーン・スンCEO

 

 ジェーン・スンCEOは基調講演のテーマを「A World in Motion, Our Journey in Cohesion」と掲げ、世界の旅行市場が新たな局面を迎えているとの認識を示した。

 2025年の国際旅行者数は15億人を超え、旅行・観光産業は世界GDPの約10%を占めるまでに拡大。世界の雇用の9人に1人を支える産業へと成長しており、世界経済全体の成長率を2倍以上上回る、世界で最も成長速度の高い産業と位置付けられている。さらに、市場規模は2025年に過去最高となる11.6兆米ドルに達したと紹介した。

 Trip.comグループ自身の業績も力強い成長を示した。2025年、同グループはグローバルパートナーに対し総額1,600億米ドル超の取引機会を創出。同社の国際OTAプラットフォームにおける総予約件数は前年比60%増加し、海外向けホテル・航空券予約数は2019年比で140%を超える水準に達した。中国インバウンド旅行者数も前年比約100%増という著しい伸びを記録している。

 各事業分野の成長も詳細に報告した。航空券事業では、航空会社パートナーへ800億米ドル超の需要を創出し、プレミアムキャビンおよびアップセル商品の取扱高が前年比約60%増加した。宿泊事業ではホテルパートナーへ400億米ドル超の需要を創出し、売上も20%以上成長。Mega Sale参加ホテルは3桁成長を達成し、Preferred Partner Programme参加ホテルは前年比60%成長を遂げた。

 鉄道事業においては国際鉄道事業が前年比60%超成長を記録し、鉄道利用者向けホテル送客数は約170万人に上った。鉄道と航空券を組み合わせたクロスセルは前年比50%増となり、欧州における鉄道事業者との連携も拡大している。観光・体験事業では現地ツアーパートナーへ16億米ドルの需要を創出し、海外空港送迎サービスは前年比150%増、海外レンタカー事業は前年比130%増を達成した。法人旅行サービス「Trip.Biz」は30以上の市場でサービスを展開しており、コンバージョン率は70〜80%向上、主要市場での取引量は前年比約400%増という急成長を遂げている。

 コンテンツとAIを組み合わせた旅行需要創出の取り組みも成果を上げている。10億回を超えるコンテンツインプレッションを創出し、Trip.Best経由の予約価値は前年比130%増、TripGenie経由の注文数は前年比400%増を記録。コンテンツ経由で創出した取引額は7億6,000万米ドルに達した。今後は、世界各地の観光局やパートナー企業と連携し、インフルエンサーやクリエイターを活用した観光プロモーションをさらに拡大する方針だ。

旅行市場を形作る「3つのD」と「3つのP」

ジェーン・スンCEO

 

 ジェーン・スンCEOは今後の旅行市場を象徴するキーワードとして「3D」を紹介した。

 第一のDは「Discovery(新たな旅行先の発見)」だ。2025年においては、ウズベキスタン、カザフスタン、アルジェリア、南アフリカ、アルゼンチン、ブラジル、コロンビアなどの新興デスティネーションが急成長を遂げ、最も成長率の高い旅行先として注目を集めた。

 第二のDは「Diversity(多様な体験)」。バリ島でのダイビングやサーフィンなどのアクティビティ需要に加え、カッパドキアの大自然、ピピ島、モン・サン・ミッシェル、ギザやイスタンブールの博物館など、旅行者はより幅広い体験を求めるようになっている。

 第三のDは「Depth(より深い旅)」だ。成長率上位20ルートのうち15ルートが長距離旅行または複数都市を巡る旅程であり、地域をまたいだ平均滞在日数も約6日間増加している。旅行者が単なる観光地めぐりにとどまらず、より深く目的地と関わる旅を志向していることを示すデータだ。

 さらに、ジェーン・スンCEOは世界の旅行者行動を変える「3つのP」も提示した。一つ目は「Premium Travel(プレミアム旅行)」。Diamond会員数は前年比130%増となり、5つ星ホテルの国際宿泊予約は前年比60%増加するなど、より高品質な旅行体験への需要が高まっている。

 二つ目は「Purposeful Travel(目的のある旅)」。旅行者は観光地を訪れるだけでなく、音楽ライブやスポーツイベントなど明確な目的を持った旅行を重視する傾向が強まっている。

 三つ目は「Pro-Leisure(プロレジャー)」、いわゆるブレジャーと呼ばれる旅行スタイルだ。出張とレジャーを組み合わせる旅行スタイルが拡大しており、週末を活用した滞在延長需要が増加している。

 ジェーン・スンCEOは次のように述べた。「世界の旅行市場は力強い成長を続けており、国際旅行者数が急増する中、私たちは新たな成長フェーズへ突入しています。私たち共通の使命は、この勢いを旅行業界全体における持続的な価値へと転換することです。Trip.comグループは、旅行者の進化するニーズに応えるため、イノベーションとサービスへの投資を継続しています。パーソナライズされた体験を通じて新たな成長機会を創出し、パートナー企業を支援し、地域社会に貢献しながら、より包括的で持続可能な旅行の未来を実現していきます」

AI活用で各事業を高度化、「Intelligence with Care」を成長戦略の核に

 Trip.comグループは自社のプラットフォーム、プロダクト、サービス全体においてAIを軸としたイノベーションを推進している。

 航空券事業ではオンラインチェックイン機能などの統合サービスを新たに導入し、AIを活用した市場分析により、航空会社パートナーに対して運営最適化のための高度なインサイトを提供している。

 宿泊事業ではワンクリックによるパーソナライズ機能やスマートカート機能を実装し、1日あたり10,500泊分の追加客室予約、および4,000件の複数部屋予約を創出している。

 鉄道事業ではマルチモーダル対応のワンストップ鉄道プラットフォームを展開しており、鉄道と航空券を組み合わせたクロスセルが前年比50%成長を達成した。

 観光施設・ツアー分野では、セルフサービス発券機を含む「Smart Ticketing Solutions」を2024年に導入し、8市場において累計10億人以上のユーザーに利用されている。

 法人旅行サービスのTrip.BizではAIエージェントが法人出張申請を自動承認しており、その承認率は98%以上に達する。さらに、AIが誤った判断を行った場合はTrip.Biz側が費用を負担する仕組みも導入されており、信頼性の高いサービスとして評価されている。

 コンテンツ・コミュニティ分野ではAIを活用したインフルエンサーマッチング機能を提供しており、企業や事業者がターゲット層に最適なクリエイターとつながることで、「旅行への憧れ」を実際の需要や予約へと転換している。

 こうした取り組みを踏まえ、Trip.comグループは「Intelligence with Care」を成長戦略の中核に据え、3つの重点投資領域を発表した。第一は「AIによる検索・予約体験の高度化」で、迅速かつ最適な意思決定を実現するためパートナー企業向けに高度な市場分析を提供する。第二は「AIと人間によるサポートの融合」で、AIの効率性と人間による判断・共感力を組み合わせることで、本当に重要な場面で信頼できるサービスを提供する。第三は「グローバル市場での法令遵守と安定運営」で、旅行者・パートナー双方から信頼されるグローバルプラットフォームとしての地位をさらに強化していく。

 さらに、旅行業界の未来予測として、世界旅行・観光産業は2035年までに世界GDPへの貢献額が16.5兆米ドルに達し、同年までに4億6,000万人超の雇用を創出するとの見通しが示された。ジェーン・スンCEOは「旅行業界は今後も世界経済を支える重要な成長エンジンであり、パートナー企業とともに持続可能な成長を実現していきたい」と締めくくった。

 新たなパートナーシップの締結も発表された。世界市場におけるタスマニア観光の成長加速を目的とした「Tourism Tasmania」とのMOU(基本合意書)締結と、アジア太平洋地域の消費者向け旅行体験の向上を目指した「Visa」との戦略的提携だ。Trip.comグループは主要市場における拠点拡大を継続しており、新たなオフィス開設も進めている。

ジェームズ・リャン会長「想像力を旅へと変え、好奇心を発見へと導く原動力」

ジェームズ・リャン会長

 ジェームズ・リャン共同創業者兼会長は、旅行産業の持続的な成長にはイノベーションが不可欠であると強調した。

 2025年の国際観光客数は15.2億人に達し、国際観光収入は約1.9兆米ドルとなった。世界の国際観光市場は今後も年間3〜4%の成長が見込まれており、2030年には国際観光客数が18億人規模に達すると予測されている。リャン会長は「旅行は新しい体験を求める産業であり、旅行者の期待に応え続けるためには絶え間ないイノベーションが必要である」と述べた。

世界10プロジェクトを選出、総額60万米ドルの助成金を授与

「Tourism Innovation Awards」の表彰式

 「Envision 2026」では、第2回「Trip.com Group Tourism Innovation Awards」の受賞プロジェクトも発表された。

 世界各地から選出された1,000件の革新的な観光プロジェクトを対象に、リゾート・ホテル、テーマパーク、自然・ネイチャー体験、イベント、ショー、ミュージアム、建築・エンジニアリングの7分野から選考が行われた。受賞プロジェクトは、革新性(Innovation Index)、顧客体験(User Experience)、社会的影響力(Impact)、投資効果(Investment Efficiency)、送客力(Visitor Activation)という5つの観点から総合的に評価された。優れた10プロジェクトが選出され、各プロジェクトにはTrip.comグループが設立した1億米ドル規模の「Tourism Innovation Fund」から、総額60万米ドルの助成金が授与された。

 「Best New Museum」部門では2プロジェクトが受賞した。英国ロンドンの「V&A East Storehouse」は、25万点以上の収蔵品を公開型ストレージ形式で展示する革新的なミュージアムだ。保存・研究活動そのものを一般公開する新しい博物館モデルとして高く評価された。カザフスタン・アルマトイの「Almaty Museum of Arts」は、中央アジア初の国際基準を満たした民間現代美術館であり、地域文化と現代アートを融合した新たな文化拠点として注目を集めている。

 「Best New Theme Park」部門では3プロジェクトが受賞した。米国オーランドの「Universal Epic Universe」は2025年5月に開業した次世代型テーマパーク。約750エーカーの広大な敷地に最先端のライドシステムや没入型体験を導入している。サウジアラビアの「Six Flags Qiddiya City」は北米以外で初となるSix Flagsブランドのテーマパークで、世界最高・最速・最長クラスのローラーコースターを擁する大型施設として注目される。タイ・バンコクの「Jurassic World: The Experience」は東南アジア初となるジュラシック・ワールドの常設体験施設で、開業後3か月で20万枚以上のチケットを販売し、施設全体の小売売上を前年比44%押し上げた。

 「Best New Architecture & Engineering」部門では2プロジェクトが選ばれた。中国・貴州省の「Huajiang Canyon Bridge(花江峡谷橋)」は世界最高・最長クラスの橋梁としてギネス世界記録を達成。橋梁技術だけでなく、バンジージャンプやガラスウォークなど観光資源との融合も評価された。UAE・アブダビの「Zayed National Museum」は、シェイク・ザイード氏が愛した鷹狩り(Falconry)に着想を得た象徴的な5基のタワーを備える国立博物館で、持続可能な自然換気システムを採用した先進的な建築として評価されている。

 「Best New Resorts & Hotels」部門ではシンガポールの「Mandai Wildlife Reserve」が受賞した。動物園、自然保護、宿泊体験を融合した新しい観光モデルを提示しており、来場者の70%以上を海外旅行者が占める国際的な人気施設となっている。

 「Best New Events」部門では中国・上海の「On Top of the Pyramid: The Civilization of Ancient Egypt」が選出された。中国とエジプトによる大規模文化協力プロジェクトで、中国初公開となる展示品が95%を占め、累計277万人以上を動員するなど、中国の博物館特別展として過去最高水準の集客を記録した。

 「Best New Shows」部門では米国ニューヨークの「Masquerade NYC」が受賞。6つのステージで同時進行する革新的な没入型ショーで、独自開発の運営システムにより照明・音響・演者をリアルタイムで統合制御する業界初の試みとして評価された。

 リャン会長は次のように述べた。「旅とは、新しい何かを体験することです。そしてイノベーションは、想像力を旅へと変え、好奇心を発見へと導く原動力です。私たちは、旅行業界の未来を切り拓く先駆者たちを支援するため、『Tourism Innovation Awards』を設立しました。今年表彰する世界中の革新的な挑戦者たちは、テクノロジーと創造的ビジョンが融合することで生まれる大きな可能性を示しています。こうしたイノベーション、そして旅行業界を前進させる無数のイノベーターたちこそが、私たちの業界、さらには人類全体が未来へ向けて成長し続ける理由なのです。」

 受賞したプロジェクトへの評価にとどまらず、リャン会長は世界中で観光産業の未来を切り開くすべてのイノベーターこそが旅行業界の成長を支える存在であると強調。「より多くの人々が世界を旅する未来に向けて、Trip.comグループはパートナーとともに創造性と挑戦を続けていく」と締めくくった。

 世界の旅行市場が新たな成長と変革のフェーズへ進む中、Trip.comグループはよりつながりのある、よりスマートで、より包括的な旅行エコシステムの構築に引き続き取り組んでいく方針だ。パートナー企業とともに、より良い旅と持続可能な長期成長を実現していくとしている。

カンファレンス会場となった上海西岸国際コンベンション・エキシビションセンター

 Trip.comグループ(NASDAQ:TCOM)は、Trip.com、Ctrip、Skyscanner、Qunarをブランドに持ち、多彩な旅行商品をワンストップサービスで提供するグローバル旅行サービスプロバイダー。1999年に設立し、2003年のNASDAQ上場に続き、2021年に香港証券取引所HKEX(9961.HK)に上場している。

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

 
 
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