【学術×現場38】マスク接客は、あり?なし? 福島規子


 コロナ禍で長く続いたマスク生活。規制がなくなった現在でも旅館やレストランで働く従業員の中にはマスクを外さないスタッフも少なくない。

 マスク着用のスタッフに対し、「こちらは裸なのに、従業員は水着着用」「こちらは丸腰なのに、スタッフは武装モード」といったように微妙な距離感を抱いたり、「表情が見えないから不安」「信頼できない」と感じたりする顧客もいるだろう。

 マスク接客が当たり前になり、ほとんどの従業員が顔の半分以上を白い布で覆っている現状ではいくら「マスクの下は笑顔です」とアピールしたところで、もてなしの心は伝わりにくい。表情研究の古典として知られる19世紀の神経学者ギヨーム・デュシェンヌは、信頼感を生む本物の笑顔には口角の上がりと目の周囲の筋肉(眼輪筋)の収縮が同時に起こることを指摘した。後に心理学者ポール・エクマンがこの知見を発展させ、これを「デュシェンヌ・スマイル」と名づけた。つまり、笑顔は「口元+目元」の連動によって初めて誠実さが伝わるといえる。

 ところが、マスク着用が長期化したことで、この構造が大きく崩れた。口元の情報が消え、残された目元の動きだけが信頼判断の中心に繰り上がったのである。しかし、顧客が目元だけで読み取れるのは、ポジティブかネガティブかといった方向性に限られ、相手がどれほど本気で向き合っているのか、どれほどの温度をもって接しているのかといった深さまではわからない。情報が減ることで誤解が生まれやすくなり、その小さな誤解の積み重ねが顧客との距離を少しずつ広げてしまう可能性もある。

 笑顔の評価には文化差もある。一般に「アメリカ人は歯を大きく見せる笑顔(グリン)を好む」と語られるが、研究はそれほど単純ではない。クルムフーバーらは、「歯を大きく見せる笑顔が、状況によっては誇張されすぎて不自然と判断される」ことを示し、ムイらはアメリカ人であっても「場面にそぐわない大きな笑顔」は信頼性を下げると報告している。

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