【本だな】インクルーシブ・コミュニティ まちの包容力を高める都市政策の実践


「誰ひとり取り残さない都市はつくれるか」——排外主義が蔓延する時代への、静かで力強い処方箋

 「異なる価値観で生きる人を排斥する——そんな排外主義が目に見えてはびこる世界への処方箋とは?」

 本書はそう問いかけることから始まる。

 気候変動、移民との摩擦、オーバーツーリズム。現代の都市が抱える課題は、複合的で、根が深い。それらの問題に共通して潜む構造——「ある人々を排除してしまう仕組み」——を可視化し、組み替えようとする試みが、この一冊に凝縮されている。

「社会的包摂とは、排除の結果に対処することだけではない」

 『インクルーシブ・コミュニティ——まちの包容力を高める都市政策の実践』(学芸出版社、2026年3月15日発行)は、政治学、社会学、経営学、食農政策、建築・都市計画、観光政策と、異なる専門を持つ研究者7名が結集した意欲作だ。

 編著者の阿部大輔(龍谷大学政策学部教授)は「はじめに」でこう綴る。

 「社会的包摂とは、排除の『結果』に対処することだけではなく、排除を生み出す構造そのものを組み替える営みではないだろうか」

 この一文が、本書全体の立脚点を鮮やかに示している。

欧州と日本、10の現場から浮かび上がるもの

 全体は4部構成、全10章。抽象的な理念から出発するのではなく、制度・空間・人間関係・経済(観光)という異なる次元での具体的な実践を次々と描いていく。

 第I部「都市政策に何ができるか」 では、EUにおける社会的排除の指標体系や「公正な移行(Just Transition)」概念の発展を追う。脱炭素政策でさえ、誰かを取り残すことがある——そのリアルな問いが、スコットランドの実践事例とともに提示される。

 第II部「空間からアプローチする」 では、バルセロナの「界隈プラン」と、都市の空地を農的に活用するスペイン・セビリアや日本の「まち畑プロジェクト」が登場する。「緩やかな囲い」という空間的概念が、閉鎖でも無秩序でもない包摂の可能性を示すくだりは、読んでいてハッとさせられる。

 第III部「人の関係を編み直す」 では、イタリア南部の農村で移民が「支援の対象」ではなく「地域を再生する主体」へと転換する過程が描かれる。また、スペイン都市の「反うわさ戦略」——差別を単なる誤解でなく社会的に生産される構造として捉え、対抗実践の選択肢を増やす取り組み——は、日本社会にも深く刺さる内容だ。

 第IV部「観光を再設計する」 では、オーバーツーリズムが生む分断と、それを乗り越える「リジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)」の可能性をコペンハーゲン、ハワイ、バルセロナなどの事例で検討する。

気鋭の研究者7名が結集

 本書を支えるのは、以下の執筆陣だ。

  • 阿部大輔(編著者・龍谷大学政策学部教授、博士(工学))——ホノルル生まれ。カタルーニャ工科大学バルセロナ建築高等院でDEA取得。『バルセロナ旧市街の再生戦略』『ポスト・オーバーツーリズム』など著書多数。

  • 白石克孝(龍谷大学政策学部教授、修士(政治学))——ローカルガバナンスと地域レジリエンスを専門とし、2019〜2022年度には龍谷大学副学長を務めた。

  • 的場信敬(龍谷大学政策学部教授、Ph.D. in Urban and Regional Studies)——英国バーミンガム大学でPh.Dを取得。エネルギー・ガバナンスと脱炭素政策が専門。

  • 佐倉弘祐(信州大学学術研究院工学系助教、博士(工学))——建築・都市計画の視点から空地活用や空間的包摂を研究する。

  • 大石尚子(龍谷大学政策学部教授、博士(ソーシャルイノベーション))——イタリア在住経験を持ち、食農政策とソーシャル・イノベーションを専門とする。『イタリア食紀行』など著書あり。

  • 上野貴彦(都留文科大学教養学部比較文化学科講師、修士(社会学))——バルセロナ自治大学東アジア研究所訪問研究員を経て、間文化主義と移民統合を研究。

  • 中森孝文(龍谷大学政策学部教授、博士(経営学))——経済産業省職員を経て、知的資産マネジメントと地域経営を専門とする。現・龍谷大学政策学部長。

 7人の専門が重なり合うことで、「社会的包摂」という概念が多角的に照射されていく。それが本書の最大の強みだ。

「包容力のあるまち」とは、摩擦を消し去るまちではない

 本書は、明確な「正解」を提示しない。

 「おわりに」ではこう記されている。

 「包容力とは、すべてを受け入れることではない。それは、衝突や違いを消し去る能力ではなく、それらを排除によって解決しない能力である」

 このフレーズは、ずっしりと胸に残る。

 摩擦は避けられない。だが、その摩擦を対話や制度、空間の設計によって調整し続けるまちこそが、包容力のあるまちだ——本書はそう静かに、しかし力強く主張する。

 誰も取り残さない都市は、ある日突然できあがるものではない。試行錯誤し、後退しながら、少しずつ積み重ねていくものだ。本書はその過程を、10の現場からリアルに描き出している。

 都市政策や地域づくりに関わる行政・自治体職員はもちろん、移民問題・観光政策・気候変動対策に関心を持つすべての人にとって、手元に置いておきたい一冊だ。

書籍情報

  • タイトル:『インクルーシブ・コミュニティ——まちの包容力を高める都市政策の実践』

  • 編著者:阿部大輔

  • 著者:白石克孝・的場信敬・佐倉弘祐・大石尚子・上野貴彦・中森孝文

  • 判型・頁数:A5判・288頁

  • 定価:本体2,700円+税

  • 発行日:2026年3月15日

  • 発行:学芸出版社

  • ISBN:978-4-7615-2967-3


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