三度目ならぬ”四度目の正直”で令和8年春、ついに桜満開の吉野山を眺めることができた。
山々を彩る満開の桜たち。下(しも)千(せん)本(ぼん)は今にも散りそうで、中千本は満開に、奥千本は花びらが開きかけていた。そのグラデーションの美しさは筆舌しがたい。桜をご神木に、修行を重ねた修験道の歴史の重みを感じた。
おおよそ1年前には宿を予約するが、過去3年、開花予測が当たったためしはなかった。方面別にまとめた取材ノートには、1年目が4月9日、2年目が3月26日、3年目は3月31日訪問と記される。すでに散り、一片の花びらもない葉桜のときがあれば、固いつぼみの寒い年もあった。
ちなみに今年は4月6日で、大当たりだった。
近鉄・吉野駅を下車するなり、大勢の人だかりができていた。その多くが、バスやロープウエーを待つ人たちだ。だが、今年も首尾よくジャンボタクシーを手配し、駅改札前につけて迎えてくれた。観桜期は許可証を持った車両のみが通行できる。女性ドライバーがゆったりとした速度で、案内してくれた。上(かみ)千(せん)本(ぼん)の花矢倉展望台からの眺めは、ことのほか絶景で目に焼き付いている。
これまで山腹の旅館を利用してきたが、今回は橿原神宮前の「グランドメルキュール奈良橿原」に投宿した。宿泊者無料のラウンジがあり、朝夕ともにブッフェ形式のオールインクルーシブだから、団体客が多い。特に女性用大浴場が混雑していて驚いた。
橿原神宮を参拝して奈良県立橿原考古学研究所附属博物館を見学し、翌日は飛鳥路を訪ねた。明日香村の石舞台古墳やキトラ古墳の壮大さにコーフン(興奮)したのは言うまでもない。大満足の1泊2日の旅だった。
さて、もう一つ、春恒例の旅が香川・琴平町の「四国こんぴら歌舞伎大芝居」である。3年前から通い始めた。公演は二部制で、演目全てを1日がかり、ないしは2日にわたり鑑賞する。上演会場の旧金毘羅大芝居(金丸座)は、江戸時代の芝居小屋を再現したつくりだから、ふかふかシートの東京・歌舞伎座のようにはいかない。
これまで、花道と仮花道の間に長い板を渡した”ひらば席”での鑑賞だったが、腰がつらい。なので今年は、1マス6名用の2階席”ゆったり桟敷席”を2名利用で、足を伸ばして鑑賞した。これまた大満足だった。
テレビドラマでも大活躍の坂東彌十郎さんのご長男・坂東新悟さんが演じた「鷺(さぎ)娘(むすめ)」は、道ならぬ恋をした鷺の精を、美しくもはかなく舞い、圧巻だった。
四国こんぴら歌舞伎大芝居に通い詰める、もう一つの楽しみは、琴平グランドホテルの近兼孝休会長との再会だ。お年を召されて「だいぶ弱ってきた」とおっしゃるが、とてもそうは見えない。「琴平グランドホテル 桜の抄」のレストラン「ゐきり」で、一緒に杯を交わした。この時期は、連日、VIP対応で忙しいはず。無理をおして出迎えてくれたことに、ただ感謝するばかりだ。
来春の四国こんぴら歌舞伎大芝居は第40回の節目となる。近兼会長を”四国のお兄さん”と慕う山形・上山温泉の女将さんも駆けつけるようだ。私たちは、さながら近兼応援団。古木の桜ほど、たくましく美しいものはない。
(観光ジャーナリスト・淑徳大学経営学部観光経営学科教授 千葉千枝子)




