提供される全ての料理に味噌や塩こうじなど自家製の発酵食品を使用
福島県穴原温泉の「匠のこころ 吉川屋」(畠正樹社長)は、創業186年の老舗旅館。6年前から力を入れてきた「発酵」を軸とした食の魅力づくりが実を結び、現在では全ての料理に自家製の発酵食品を取り入れたメニューを提供している。
2020年、コロナ禍の休業期間中に迎えた180周年を機に、新たなコンセプト「ココロとカラダに優しい宿」を打ち出し、食の在り方を見直し。社内で議論を重ねる中、「免疫力や健康維持には腸内環境が重要であり、その改善には発酵食品が有効」との考えに至り、発酵を軸とした方針を定めた。「一過性のトレンドではなく、発酵を当館の食の『基本方針』として位置付けている。100室を超える大型旅館で、ここまでこだわっているのかと驚かれることも多い」と畠社長。

提供される全ての料理に味噌や塩こうじなど自家製の発酵食品を使用
最大の特徴は、宿泊客に提供する全ての料理に「味噌(みそ)」「甘酒」「塩こうじ」といった自家製の発酵食品を使用していること。例えば、春会席で提供される自家製塩こうじを使った「新たまねぎのムース」は、こうじの酵素がタマネギの甘みを自然に引き立てる自慢の一品だ。

発酵食品を使った「黒毛和牛すき焼き会席」(春)
朝食ブッフェでも、魚醤(ぎょしょう)を用いた肉じゃがや、自家製の漬物など、こだわりの発酵食を提供している。不動の人気を誇る「フレンチトースト」に仕込んだ甘酒は、米こうじから手作り。発酵食品を前面に打ち出す料理と、発酵調味料としてうまみを引き出す料理を意図的に使い分けている。
導入当初から発酵の研究や献立づくりに取り組んできた大友博幸料理長は、「発酵食品マイスター」や「発酵食品健康アドバイザー」などの資格を持ち、得た知見を料理に反映。大友料理長は、「苦労は数えきれないが、畠社長の『失敗があってこそ、成功が生まれる』という言葉が励みになった」と振り返る。

大友博幸料理長
課題についても明かす。「発酵食品は食材の引き立て役だからこそ、その魅力を言葉で表現するのが難しい。現地に足を運んでもらい、味わってもらうことが重要だ」(畠社長)。インバウンドは台湾客が中心だが、今後は発酵食への関心が高い欧米客の取り込みも視野に入れる。
1日からは観光企画「ふくしまデスティネーションキャンペーン(DC)」が始まった。福島県が推進する「発酵ツーリズム福島」も追い風に、さらなる発酵食の認知拡大と誘客促進につなげたい考えだ。
【編集部 溝部あゆ美】




