個人のライフスタイルの選択肢であり、また人口減少に悩む地域にとっての希望となった「地方移住」。Uターン、Iターン、地域おこし協力隊、そして地方創生といった言葉とセットになったこの潮流は、個人の自発的な思いから生まれた自然発生的なブームなのだろうか。本書は、数多くの政策文書やメディアの言説を丹念に読み解き、個人の移動を「地域開発」の資源として動員してきた戦後日本を貫く欲望の正体を描いている。
本書の成果は、戦後、とくに高度経済成長期以降に生じた地方移住政策が一貫して有してきた、移住者をめぐる期待と価値規範を明らかにしたことにある。それは、国土や地方の開発と発展に貢献する「人材としての移주者」という期待と理想化の一貫性であったと指摘する。
都道府県による移住政策の嚆矢とされる熊本県の「Uターンアドバイザー制度」や、長野県の「Iターン」政策の生成と展開、期待されながらも生じなかった「団塊世代の大量移住」、そして「地域おこし協力隊」制度の拡大を支えた論理や、「地方創生」下の自治体間移住者獲得競争など、具体的な事例分析を通して、その歴史的変遷を明らかにしていく。
著者の伊藤将人氏は1996年生まれ。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員・講師を務める。専門は地域社会学、地域政策学、モビリティーズ研究であり、地方移住や関係人口など地域を超える人の移動に関する研究や、持続可能なまちづくりの研究・実践に携わる。
なぜ国や自治体は半世紀にわたり、特定の「理想の移住者」を求め、その獲得に勤しんできたのか。本書は、その問いに歴史的アプローチで挑む一冊である。
A5判上製474ページ、定価6300円+税。
発行=春風社。





