諏訪の観光戦略 諏訪観光協会 事務局長 内田敏寛氏に聞く


内田事務局長

地域の観光資源を磨き上げ国内外・全世代からの誘客図る

 ――諏訪市の観光の現状について。

 「コロナ禍が始まる前(2019年)までは、年間の入り込み客数は約600万人、宿泊客数は60万人弱といった状況だった。当市を訪れる観光客数は年々微減傾向が続いていた」

 「インバウンドについては15年ほど前から広域の市町村と連携してアジア市場を中心に誘致に取り組んだこともあり、外国人宿泊客数が徐々に増えたが、2015年の約3万7千人をピークに伸び悩む状況が続いていた。急速に進むFIT化への対応の難しさを感じるとともに、一定の取り組みを継続してきた一方で、宿泊客数に占める訪日外国人宿泊客数の割合が5%程度にとどまる状況について、訪日外国人観光客だけで国内宿泊旅行の減少をリカバリーすることの難しさと、インバウンドはもとより国内宿泊旅行の促進も改めて重要であると感じた」

 ――国内旅行促進のポイントは。

 「22年のわが国の人口は、前年比で約82万人減少している一方、65歳以上の人口は3627万人で過去最多となり、総人口に占める割合は29・1%で過去最高となっている。人口減少と少子高齢化が進行し、国内の宿泊旅行市場の縮小は避けられない状況となっている。しかし、生産年齢人口が減少し続ける一方、70歳以上の世代人口と割合は増加している。旅行意欲が高く経済的にも余裕があり、平日の宿泊需要への供給が見込める高齢者市場にはポテンシャルがあり、国内宿泊旅行市場の維持につながると考える。だが70歳以上になると、健康状態や足腰の不安から、旅行への強い意欲があっても諦めてしまい、1人当たりの年間平均国内宿泊旅行回数が他の世代と比べて減少してしまうという現実がある」

 ――諏訪市は高齢層にも魅力的な観光資源を多く有する。

 「その通りだ。上諏訪温泉はJR上諏訪駅から平坦路を歩いて10分ほどで到着でき、ジョギングロードに加えサイクリングロードも整備された諏訪湖周はアップダウンも少なく、負担なく散策できる環境を備えているので、足腰に不安がある方や体が衰えたと感じている方でも旅行を十分楽しめる環境にある。実際に当市への来訪者の内訳を見るとシニア層の割合が特に高く、当市は温泉の他にも諏訪五蔵の地酒や諏訪大社などの歴史や文化、霧ヶ峰高原でのトレッキングや自然鑑賞など、シニア層の趣味や志向にマッチする観光資源を多く有しているのが強みだ」

 ――若年層は。

 「諏訪に対するイメージとして若年層への浸透が弱いという調査結果が出ており、若年層の取り込みが課題となっているが、見方を変えれば、シニア層には認知度が高いという面があるので、シニア層の旅行に適した環境を誘客に生かしていくべきだと考えた」

 ――ユニバーサルツーリズムについて。

 「長野県ではユニバーサルツーリズムを推進しており、上諏訪温泉でも同様に取り組んでいる。しかし、ホテル・旅館の改修には相応の投資を要し、大規模改修の機会でもないとなかなか取り組みにくかったところに『地域一体となった観光サービスの高付加価値化』の制度が設けられた。当地域では、ユニバーサルツーリズムを促進させるとともに、『最終目標として三世代で何度も泊まりたくなる地域づくりを目指すため』『シニア層をメインターゲットとした宿泊施設や観光施設のバリアフリー改修などを実施』という内容で、採択を受けることができた」

 ――具体的には。

 「参画した各宿泊施設は、客室のユニバーサルデザイン化や露天風呂付き客室への改修、共用スペースの段差解消等、改修工事を進めている。高齢者や障がい者などが旅行を楽しめる環境整備が進展していくことが国内宿泊旅行の促進につながると考えている」

 ――施設の改修に期待することは。

 「建築してから30年ほど経過したホテル・旅館が多く、当時の団体旅行需要に応えるための構造となっているところが多い。旅行形態や消費者ニーズが変化するのに呼応して計画的に改修を進めている施設もあるが、今回の高付加価値化事業では、既存の和室客室からベッドコーナーを備えた和モダン客室への改修や、狭かった客室フロアを露天風呂付き客室に改修するケースが多い」

 「これらの客室は高齢者や障がい者の方々向けに限った部屋ではなく、世代を越えた利用が期待できると考えている。和モダンの客室は若年層にも人気で幅広い層から喜ばれ、露天風呂付き客室はファミリー層はもとより、温泉への関心は高いが大浴場を苦手とする訪日外国人観光客にも好まれる。客室構成の再編によって宿泊単価や適正稼働率の見直し、労働環境の改善につながるような波及効果にも期待したい」

 ――その他の取り組みや課題などについて。

 「デジタル技術を活用した取り組みとして、AR技術を利用したアプリケーション『AR諏訪花火』を制作し、昨年末にリリースした。アプリをダウンロードして、市内の指定されたAR花火スポットでスマートフォンのカメラをかざすと画面上の風景に重ねて花火動画が再生されるもので、写真撮影もできる。諏訪市の観光入り込み客は夏場に集中し、夏以外の時季の誘客が課題だった。さらに最近3年間は夏の花火大会も中止や規模縮小が続き、宿泊客や市内を周遊する観光客も減っていた。そこで、『諏訪湖の花火』のブランド力を生かし、街中のスポットを巡り、年間を通してバーチャル花火が楽しめる取り組みとした。観光客の周遊促進につなげたい」

 ――読者に向けて。

 「各地で観光庁の高付加価値化事業を活用した事業が実施されている。お互いに情報交換できる機会をいただけるとありがたい」

うちだ・としひろ=長野県出身。法政大学法学部卒業後、メーカー勤務を経て2005年諏訪市役所入庁。22年4月諏訪観光協会に出向。
【聞き手=西巻憲司】

 

 
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