【道標 経営のヒント115】ブランディング発想 宮坂 登


 来年春に新規オープンするホテルの準備が佳境を迎えつつある。観光資源が実に豊富な有名観光地。立地ロケーションの素晴らしさや天然温泉の魅力なども相まって、開業の折には大きな話題を呼ぶことが予測できる。そのお手伝いをさせていただいていることに感謝の気持ちでいっぱいである。

 今取り組んでいるのは、ロゴマークの制作に始まり、名刺、封筒、オープン予告パンフレット、インフォメーションブックなどの制作、サイン設計だが、その中でブランディングの大切さを理解してもらうことに腐心していた。

 ホテルや旅館のロゴマークを新たに制作し、取り扱っていく中で一番大切なことは「ブランディング」の観点からの判断である。ブランディングとは、ユーザーの意識下に好ましいイメージを育んでいくこと。ホテルでも早く、広く、深く、そのホテル名とロゴマークの存在感を認識してもらえるように誘導することが賢明と考えている。ホテル名を聞いて、どこのどんなホテルなのかイメージしてもらうように誘導する。さらに、ロゴマークやシンボルマークを見て「ホームページにあった」「印刷物にあった」「広告にあった」「サインにあった」と思い起こして認識してもらう。そのイメージが「一枚岩」として意識下に形成されること、それがブランディングの基本だと思う。

 しかし、今回の案件では施主側と設計側で意見が分かれていた。設計側の判断は、サインにはロゴマークにセットされたシンボルマークは必要ない、というものだった。ホテルへの来館時にまでシンボルマークの表示は不要という考えだ。そのやりとりを聞いていて、これははっきり言ってミスリードだなと思っていた。設計側がブランディングの観点に立っていないからである。同じくサインのデザインも設計の意匠を重視するあまり、極力小さくという考え方で、さらにトイレサインにいたっては男女の色分けなども排除していた。サインは誰が見ても一目でわかるものでなければならないはずだ。

 このままオープンしたとしたら視覚的なイメージがバラバラになりそうだし、お客さまに与えるホテルの総合イメージにも少なからず悪影響を及ぼすだろうと判断し、施主側、オーナーに直談判して定例会議の席上で設計側の判断を撤回させた。

 お客さまの中には出発の折に、玄関先で記念の写真を撮る方が多い。その写真に映り込んだシンボルマークやロゴマークの存在が再来館につながっていく。ブランド力とはそういうものだと思っている。

 
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