【観光立国・その夢と現実 8】特別地方消費税撤廃運動1 小原健史


 旅館ホテル業界で長年にわたっての悲願であった「特別地方消費税の撤廃」(以前は料理飲食等消費税と言う)は、昭和63年消費税3%が導入された時期、およびその後の増税されるタイミングを狙って旅館業の多くの先輩や仲間と共に総力をあげてその廃止運動を展開した。その運動は旅館業側の国会議員や自治省側の議員の相克、自民党本部、自治省、大蔵省なども巻き込んで、すさまじい政治闘争となり、自民党税制調査会の場で平成9年に廃止を勝ち取った。

 今回のこのコラム掲載の一つのきっかけとなった宿泊業界の最大の税制廃止運動の記録として、ここに連載し詳細をつづり後進の方々の参考にしていただきたいと思う。

 さて、江戸や明治の時代にも旅籠(はたご)や飲食に課税をする制度はあったが、本格的な宿泊飲食に対する課税は昭和14年にソ連・満州国境で勃発したノモンハン事件の軍事衝突の際「兵隊さんが敵と戦っている時に旅館や料亭、遊郭で遊び酒を飲み料理を食らうとはけしからん!」との理由で創設された懲罰的な奢侈(しゃし)税であった。昭和15年に「遊興飲食税法」が公布され地方の税収として位置づけられたが、昭和36年には「料理飲食等消費税=料飲税」と名称が変わり、昭和63年になって「特別地方消費税」となった。

 料飲税の時代は、旅館ホテルや料亭や高級飲食店では、一定の1人当たりの免税点以上の売り上げに対してはその10%を徴収する税制で顧客に理解されにくく、また、預かり金の税金とはいえ、毎月末の支払いに大変な手間が掛かり難渋していた。特に全旅連、国観連、日観連の旅館3団体では、毎年の事業計画の主要項目にこの「料飲税撤廃」を掲げ盛んに陳情を行いさまざまな対応をとっていた、その年数は何と約70年にもわたる。料飲税は都道府県税で各知事や自治省はこの虎の子の税制を決して手放そうとはしなかった。

 私が昭和46年に大学を卒業した当時の料飲税はわが旅館では年間約1億円であり、苦労しながら毎月支払っていた記憶が鮮明に残る。その税額の計算方法は複雑怪奇で、特に小規模旅館の年老いたご夫婦には、毎月末の料飲税の算出と申告が大変な苦しみだった。また、担当職員の旅館内への視察調査も厳しく、その対応にも旅館側は神経をすり減らしていた。

 平成5年、旅館3団体では「特消税撤廃対策小委員会」を発足し、不肖私が小委員長を拝命し、メンバーは全旅連青年部のOBや現役の幹部を中心に20数名で組織された。それまでの料飲税撤廃運動の歴史に鑑み、小委員会ではまさに“背水の陣”で臨むこととなり当初から「今回は絶対に撤廃を勝ち取る! そのためには、どんな手法もどんな苦労をもいとわない!」とお互いに心に誓った。

 小委員会は後に「特消税対策本部」に改称されたが、税制を決めるのは国会議員であるとの理由で「国会対策班」、特消税の不当性のPRを一般消費者へ浸透すべきとして「消費者対策班」、そして旅館業界や関連の飲食業界の隅々まで撤廃の意思を徹底するための「業界団体対策班」の3班制をとった。

 国会対策班は、全旅連会長をもつとめていただいた山本富雄参議院幹事長の急逝を受けて後継された山本一太参議院議員と深く連携し、さまざまな国会の内部情報を集め分析し、全ての税制について討議し決定する“自民党税調”を決戦の場として的を絞って活動した。

 また、税調には全議員が出席し発言できるので、多くの有力国会議員の地元の旅館組合と“選挙”を意識した(失礼ながら)“逆の飴(あめ)と鞭(むち)作戦”を使いわけながら、小選挙区制で第1回目の総選挙に「特消税撤廃に賛成か反対か?」を問うた。

 (佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター会長)

 
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