鳥獣被害に対する行政支援の充実に伴い、全国各地の自治体が被害対策に取り組むようになり、捕獲鳥獣の食肉としての利活用推進の動きも活発になってきた。中でも目覚ましい活動を行っているのが、年間の鳥獣被害額がおよそ3億円近くにものぼるという高知県である。
同県では、「高知の新食文化」としてジビエの消費拡大を目指し、さまざまな啓蒙普及活動を実施している。その最も大きなイベントが、「よさこいジビエフェア」だ。
ジビエとはご承知の通り、狩猟によって捕獲された野生鳥獣のこと。狩猟の盛んなヨーロッパではこれを調理する食文化が受け継がれてきたが、日本人にとってはあまり馴染みがなく、「獣臭い」「クセがある」といったイメージが強い。
そこで、ジビエのおいしさを理解してもらうために、鹿や猪の肉を使用した料理をできるだけ多くの人に食べてもらおうと始まったこのフェア、今年は県内の飲食店34店舗が参加した。その料理は「イノシシのカツカレー」「シシ肉ソーセージのピザ」「鹿バーガー」「鹿肉の竜田揚げ」など、洋の東西を問わず多種多様だ。
大自然で育まれたジビエは運動量が多く筋肉質なので、高タンパク低カロリー。その上鹿肉の鉄分含有量は牛肉や豚肉の約4倍以上、猪肉のビタミンB群含有量は牛肉の約2倍以上と、おいしいだけでなくヘルシーな食材なのだ。
同フェア以外にも、「シカ肉料理コンテスト」や「加工処理講習会」「よさこいジビエ調理教室」といった勉強会などがあり、高知県香美市では、「4月29日シカニクの日!べふ峡温泉スプリングフェスタ」というイベントも開催される。
「高知県は、ひとつの大家族やき。高知家」というスローガンで観光振興に注力する同県、フツーの取り組みでは終わらない。
これまでの旅では味わえない高知の魅力を体感できるツアーを企画、発表するため、県が設立した架空の旅行会社「高知家エクストリームトラベル社」が、「めざせ狩りガール!大自然のなかで野生動物を知り、食す」というツアーを開催(実施はとさでんトラベル)。地元猟師から狩猟や鳥獣被害の実情についてレクチャーを受け、鹿の処理を見学、そして自分たちでジビエ料理を作って食べるという、まさにエクストリーム=過激な旅だ。
高齢化によるハンター減少が鳥獣被害の一因だが、そんな中期待されているのが、狩猟免許を取得した「狩りガール」。近年その数が急増しているという彼女たち、狩猟によって命の尊さを知り、食材への感謝の念が強くなったと言う声が多いと聞く。
動植物の命を戴くことへの感謝の表れとして、「いただきます」という言葉があるのだ。
現在「志国高知 幕末維新博」を開催している高知県。同県出身の幕末の志士、坂本龍馬の名言「世の既成概念を破るというのが、真の仕事である」との気概で、鳥獣被害のおいしい解決策を進めていただきたい。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。