【竹内美樹の口福のおすそわけ 214】お宿の地産地消 竹内美樹


萩焼甘鯛のお椀

 例年100日以上の間、国内外を旅している筆者。47都道府県中なぜか宿泊したことがなかったのが、山口県であった。このたび機会を得て、同県長門市湯本温泉の「大谷山荘」に伺った。同館を一躍有名にしたのは、2016年に行われた安倍総理とプーチン大統領の日露首脳会談の会場となったことだろう。高級温泉旅館の中でもトップクラスの評価を得ているのは、客室やお風呂など施設の素晴らしさだけでなく、きめ細やかな配慮にあふれたおもてなし、そしてお料理と、ハコ、ヒト、モノの質が全て極上だからだ。

 現在耐震補強工事中で一部レストランが営業できないため、宴会場を利用し、ブッフェを提供しているとのことなのでチラッと拝見。始めたばかりで手探り状態だと大谷のり子女将はおっしゃるが、ふぐ刺しやお造り、にぎりずし、ステーキなど、豪華な食材を料理人がその場で調理するスタイルで、実に見事であった。

 その後、大谷峰一社長、女将と共に、隣接する「別邸音信(おとずれ)」の「日本料理雲遊」でお夕食。客室数129の山荘もゆったりとした空間が魅力だが、わずか18室の別邸は、よりプライベート感に満ちたぜいたくな造り。

 「長門の福風」と題された献立を見ると、食材それぞれに産地が書いてある。油谷(ゆや)車海老、長門三隅カリフラワー、長門胡瓜(きゅうり)、仙崎雲丹(うに)、萩甘鯛、長門蕪(かぶ)、北浦青海苔(のり)、仙崎鮃(ひらめ)とやり烏賊(いか)、萩明木自然薯(はぎあきらぎじねんじょ)、安岡葱(ねぎ)、長萩和(ちょうしゅう)牛、美東牛蒡(ごぼう)、秋芳ねぎ、長門はなっこりー、仙崎あかもく、菊川の海老芋、萩佐々並九郎米、美祢(みね)法蓮草、長門いちご、美祢ブルーベリーと、ざっと挙げてもこれだけある。

 油谷湾や仙崎湾は、車海老の養殖やヒラメの栽培漁業、やり烏賊漁も盛んな海の幸の宝庫。そして山口県と言えば、やっぱり県魚のふぐ。その集積地として知られる下関は、全国で唯一ふぐ専門の南風泊(はえどまり)市場もあるふぐの本場だ。

 献立に「ふぐ刺し」と並んで記されていたのが、安岡葱である。下関市安岡地域で、ふぐ料理に合うように風味を改良して生産され、「ふくねぎ」とも呼ばれる極細のネギ。約3センチの長さに切りそろえた「寸ネギ」をふぐ刺しで巻いて食せば、生で食べても辛過ぎず、芳醇な香りがふぐの旨味を引き立てる。東京中央卸売市場では、青果市場でなく魚市場で取り扱われており、一般人では入手困難な、地元ならではのネギだ。

 萩生まれ萩育ちの長萩和牛の炭火焼は、言うまでもなく超美味。そして市内の生産者全員が山口県からエコファーマーとして認定されているという美祢法蓮草は甘味が強く、赤だしの具にピッタリ。

 いずれも最高においしい地元食材を堪能させていただいた。これぞ、旅の醍醐味(だいごみ)の一つである。宿のモットーは「山草花のおもてなし」。押し付けでなく、野の花のようにさりげないおもてなしを表現したもの。地産地消のこだわりも、地域貢献はモチロンだが、お客さまへのおもてなしの心の表れだと感じた。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

萩焼甘鯛のお椀

油谷車海老や仙崎雲丹の前菜

ふぐ刺しと安岡葱・仙崎鮃とやり烏賊のお造り

長萩和牛の焼物・仙崎あかもく酢等

菊川海老芋の炊き合わせ

美祢法蓮草の赤出汁・萩佐々並九郎米

長門いちご・美祢ブルーベリー

 

 
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