【私の視点 観光羅針盤 351】開国を前にレジリエンスの議論を 吉田博詞


 本年9月15日に政府が新型コロナウイルスの水際対策を大幅に緩和する指針を打ち出した。10月をめどに個人旅行客の入国を解禁し、現在1日あたり5万人としている入国者数の上限も撤廃し、米国等からはビザなしでの短期滞在も認める方針を打ち出した。既に入国制限を撤廃しているG7並みの円滑な入国が可能となるように、一気に方向転換していくと考えられる。

 6月10日から緩和された、いわゆる青区分の国・地域の添乗員付きパッケージツアーの結果としては、JNTOが発表した2022年7月の訪日客数でみると14万4500人で、コロナ前2019年7月299万1189人の4.8%にすぎない。観光業界としては、インバウンドの回復が待ったなしの状況となる。

 2019年9月の円相場は1ドルあたり約107円で、2022年9月20日現在約143円であることを考えると、1ドルあたりの円相場が約74.8%となり、約4分の3の価格で日本での滞在ができることになる。この円安傾向も一つのフックになることが期待される。

 ただし、航空券は世界的にトータルで高い状況は続いており、燃油高のサーチャージを含めてで、以前の3~5倍するような場所があるのも事実である。また、中国は当面ゼロコロナ政策を続ける見込みであり、2019年時点で959万4300人と、総数3188万2100人の3割強を占めていた中国からの訪日は、まだ回復に時間を要する状況として冷静に見ておく必要がある。

 さて、これらの開国傾向において、われわれは何を考えて動くべきか? この2年半で得られた知見は何なのか、今一度その総括をした上で、同時に来るべき回復への準備をしてほしい。

 「今後の感染症等危機対応」「地域のあるべきビジョン」「狙うべきターゲットのポートフォリオ」「単価アップ」「リピーター対策」「地域内連携」「デジタル化推進」等々議論してきたことも多いだろう。

 この20年を見ても、2001年の同時多発テロ、2002~03年のSARS感染拡大、2011年の東日本大震災、2012年の尖閣諸島関連の日中危機、2012年のMERS、そして2019年の新型コロナウイルス感染症と、観光業界における大きな危機が数多く発生したのも事実だ。観光業界においては、10年に1度は大きなリスクが発生するといわれている。この業界で生きていくには、安定期は危機と危機の間の期間でしかないということを前提に事業戦略を考えていく必要がある。

 今回の学びとして残してもらいたいのが「レジリエンス(回復力)」である。今後、起こりうるさまざまな危機に対して、弾力あるしなやかな調整機能を普段からシミュレート・準備できれば、どんな危機にも対応できる力が備えられるに違いない。開国を前に、各地で今回のコロナの総括、そしてレジリエンスのあり方を共通認識化してもらうことを願いたい。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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