【私の視点 観光羅針盤 276】内憂外患の日本観光 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三


 私が北海道で最も高く評価してきた旅行会社が解散することになり、かなしい気持ちになっている。北海道中央バスはグループ観光事業の組織運営体制の見直しを行い、連結子会社のシィービーツアーズ(CBT)を吸収合併すると発表した。

 CBTは1990年に創業され、「北海道遺産の旅」「産業遺産の旅」など地域振興に力点を置いたバス旅行を数多く催行し、北海道各地で頑張る地域の人たちと連携して、気配り、心配りを大切にしながら、北海道を盛り立てることに大きく貢献してきた。

 北海道中央バスは本社に「観光事業推進本部」を新設し、その下部に「シィービーツアーズカンパニー」を設置してCBTによる主催旅行を引き継ぐが、その他の手配旅行業務は廃止される。それに伴って、CBTの社員のほとんどがグループの他の関連会社に移籍することになった。
日本観光は「内憂外患」状態が継続されており、容易に明るい未来を想定し難い状況にある。そのためCBTの解散を決めた北海道中央バスの経営陣の判断は極めて妥当である。

 コロナ禍を収束させるための切り札とみなされているコロナワクチンの導入についても政府の対応のあり方はダッチロールを繰り返しており、また沈滞した日本を大きく浮上させるはずの東京五輪開催についても森喜朗前会長の女性差別発言で不安定な状況にある。コロナ禍で日本経済が停滞し、企業倒産や失業が深刻化しているが、菅政権は支持率低下が止まらず、苦しい政権運営が続いており、「内憂」解消の見通しは立っていない。
一方で「外患」も深刻化している。米国でバイデン政権が発足し、自国第一主義から国際協調主義、同盟重視主義への転換が期待されたが、2月早々にミャンマーで軍部によるクーデターが発生し、国際緊張が一挙に高まっている。

 米国はクーデターを批判しているが、中国は静観している。日本は軍事クーデターへの抗議を行っているが、既にミャンマーに多額の投資を行っており、軍部が中国への依存度を高めることへの危惧から懲罰的措置に慎重な姿勢を見せており、米国のいら立ちを喚起している。日本は米国の同盟国であるが、経済面では中国を無視し得ない面がある。

 バイデン政権は中国の覇権主義を封じ込めるために、「日米豪印戦略対話(4カ国による戦略的地域協力)」の推進に力を入れており、併せて米国の同盟国としての日韓連携にも強い期待がある。しかし韓国の文在寅大統領は北朝鮮との関係修復と朝鮮戦争の正式終息の実現に必死であり、良好な日韓連携の実現は困難であろう。さらに習近平国家主席は台湾統一への野心を強めており、南シナ海での軍事的緊張が高まっている。

 日本観光を取り巻く「内憂外患」状態は今後も継続されるので、観光関連企業は厳しい経営判断を行い、見通しの立て難い苦難の克服が求められている。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 

 
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