【新春インタビュー】どう生きる コロナ社会の観光業 自民党幹事長代理・観光立国調査会会長 林 幹夫氏に聞く


林 幹夫氏

 ――2020年は新型コロナウイルスの感染拡大で、日本経済、企業は大きな打撃を受けました。観光業にどんな影響を及ぼしたと思いますか。

 「安倍政権時代の2016年、観光ビジョンを打ち出し、外国人客を日本にいかに呼ぶか、目標を立てた。『20年に訪日外国人客数4千万人、経済効果8兆円』を目指して、観光立国の推進に政府・与党、観光関係産業を挙げて取り組んできた。その結果、19年の訪日外国人旅行者数は3188万人(前年比2.2%増)と2年連続で3千万人を突破し、過去最高を記録するなど、観光は『地方創生の柱』『成長戦略の切り札』として順調に成長を遂げてきた」

 「コロナ禍により最も打撃を受けた産業が観光業だ。実際、国外への移動や国内における長距離の移動が制限されたことにより、国民の旅行に対する消費意欲は著しく落ち込んだ。海外ではいまだに猛威を振るい、感染者の数は増え続けているため、他国への渡航を制限している国や入国を制限している国が多く、国を超えた移動が難しいため、インバウンドや日本人による海外旅行は厳しい状況にある」

 「実際、20年4月の訪日外国人数は前年同月比マイナス99.9%にまで落ち込み、インバウンドブームの終焉(しゅうえん)もささやかれるような状況になっている」

 「また、宿泊業の9割ほどが、4、5月の宿泊予約が7割以上の減少。旅行業に関しても、予約人員が前年同月比で6~9割の落ち込みとなるなど壊滅的な影響を受け、地方経済、生活の基盤が大きく揺るがされる事態となっている」

 

 ――政府は観光業支援策として「Go Toトラベルキャンペーン」を実施していますが、どう評価されていますか。また、延期を望む声もあります。

 「現在、国は国民の命を守るために、感染症対策と経済の両立を図っている最中だ。Go Toトラベル事業はその経済対策の中心であり、失われた旅行需要の回復と旅行中における地域の観光関連消費の喚起を図り、ウィズ・アフターコロナ時代における『安全で安心な旅のスタイル』を普及・定着させる事業として、今後の日本・地域経済の立て直しの柱となっている」

 「全国各地から、延長を望む声をいただいているが、21年6月末までの延長が決まった。感染症拡大防止策をしっかりと講じながら、必要な予算をもって取り組んでいく」

 

 ――コロナ禍を契機にワーケーションなど新しい業態に注目が集まり、菅義偉首相も関心を示されていますが、先生はどうお考えでしょうか。

 「感染症の拡大により、人が集まることで生じる『密』な環境は、われわれの安全を脅かす重大な要因の一つとなっている。その一方で、『密』を回避するためのテレワークやリモートワークといった新しい働き方が急速に広がり、さらにそれが発展して、自宅でなくても休暇と併用して旅先で仕事をする『ワーケーション』が注目されはじめた。ワーケーションを取り入れる企業、利用する社員、受け入れる地域、関連する民間事業者、それぞれの立場から期待が寄せられている」

 「また、地方創生の柱の一つである『関係人口』や働き方改革にとっても、ワーケーションは興味深い取り組みと理解している。苦境に立たされている観光業界にとっても、旅行会社や旅館・ホテルが中心となってワーケーションを売り出すなど、反転攻勢として期待している」

 「当然、全ての日本人がこのワーケーションを利用できるような多様な働き方ができるわけではないが、コロナ後の社会変化と共に、大きな価値を生み出し、新たな旅行の可能性が引き出され、都市圏への人口の集中を本格的に変える一つにつながることを期待している」

 

 ――ウィズコロナといわれますが、観光は今後どうコロナ時代を乗り切ればいいのでしょうか。また、観光立国調査会として、何か政策をお考えでしょうか

 「新型コロナウイルス感染症が落ち着きを見せていない中で、コロナへの対応は緊急的・短期的視点による取り組みが中心だった。Go Toトラベル事業により、観光需要が回復傾向にある。しかし、東京五輪・パラリンピックが1年延期となり、2025年に開催予定の大阪・関西万博に向けて、本格的な需要回復後を見据えた長期的な視点が今後は必要となってくる」

 「旅行者は過密都市に行きたくないとの思いが強まり、近場や地方の観光地への関心が高まっている。これまで観光の中心はインバウンド需要で、インバウンドの取り込みを中心に考えてきた。日本の観光はインバウンドに頼り過ぎてきたことを反省し、これからは視点を切り替えることが必要になる」

 「そのことを踏まえて、観光地の感染症対策、新たな観光客を呼び込む観光地の魅力の向上、磨き上げ等についてもサポートをしていきたいと考えている。同時に、旅行する側、受け入れる側、それぞれが感染症対策を講じ、新しい旅のかたちに即したマナーを徹底することを国民の皆さんと共有する努力をしていきたいと思う」

 「調査会としては、これまで観光に携わるあらゆる業界の皆さまと意見を交わしながら政策を具体化してきた。今後もその姿勢を続けて、日本の観光業の再建に取り組んでいく」

 

 ――21年は東京五輪・パラリンピックの開催が予定されていますが、観光業にとってどんな年になるとお思いですか。

 「東京五輪・パラリンピックを開催することは、日本が新型コロナウイルス感染症に打ち勝ち、観光するにも安全安心であると世界に証明することになる」

 「20年は観光業にとっては非常に苦しい年となった。これまでも多くの自然災害が起こるたびに、『旅』が被災地や住民を元気にしてきた。新型コロナウイルス感染症により疲弊した日本の活力を取り戻し、国民を元気にする力をもっているのが観光だ」

 「東京五輪・パラリンピック、さらに25年に開催を控える大阪・関西万博に向けて、21年は日本にとっても、まさに観光業にとっても正念場の年となる。しっかりと観光業の皆さまと連携して、万全の対応を取っていきたい」

【聞き手・内井高弘】

林 幹夫氏

 

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