【地方再生・創生論 217】「読書コンクール」を開催しよう 日体大理事長 松浪健四郎


松浪氏

 私の結婚式のスピーチは、「木を植えよ、子供を産め、本を読め」である。このアラブの格言は、若者たちの結婚生活に役立つと考えると同時に、出席者たちに風土・文化・宗教等の異なる国や社会について識(し)ってほしいという願望も重なる。何よりもこの三つのフレーズは覚えやすいであろう。

 「木を植えよ」は、一木一草も生やさない雨の降らない荒涼とした砂漠地帯にあっては、水がない。そこで皆で遠くを流れる大河から、たとえ細くとも1本の運河を掘れば水が流れてくる。公共性、協力の大切さを説く。水があれば、木を植えることができる。田畑を耕すことができる。しかも泥をこねて家を建てることもできる。つまり、社会を創る、国を創るためには、人々の公共心がなければならないという教えである。

 「子供を産め」、現代日本社会でこのフレーズを発すると、セクハラでおしかりを受けるかもしれない。が、少子化社会にあっては、このフレーズはホンネだ。時に私は、「子供を産め」を「家族を愛せ」に置きかえる。公共心も大切だが、家庭や家族も大切にしろという教え。少子化は、間違いなく社会の活力を低下させ、やがて消失させる心配がある。

 「本を読め」。これについて記述したかったのだが、社会や国が成長するためには「木を植えよ、子供を産め」の導入が必要だった。遊牧生活を営むアラブ社会の人々は、悲しいことに学校教育を受けることができない。が、生きていく上で、成長するためには、豊かさを手中にするためには、「情報や知識」が求められる。遊牧する民たちは、オアシスで毛皮や家畜、乾燥ヨーグルト等を売却するのだが、大量の書物も買い込むのだ。

 アラブ社会のオアシスは、私たちには想像できないくらい、昔の神田の古書店街のごとく古本屋さんが軒を連ねる。新刊本もあるが本屋さんは盛況、多くの住民や遊牧民が出入りしている。本を手中にするのは、彼らにとって最大の楽しみ、遊牧するためのエネルギーになっている。

 学校教育を受けていないため、親が子供たちに「読み、書き、算数」を教える。この家庭教育の伝統は徹底していて、活字に親しむ習慣が身に付いている。印刷技術の始まりは、アラブ社会のイスラム教徒からだから、書物好きが今日でも多いといえる。

 神奈川県の大和市は、図書館を売り物にする自治体である。住民たちの感性を豊かにすることを推奨し、子どもたちの視野を広げさせて、学問・知識の重要性と面白さを身に付けてほしいと願っているのだ。図書館利用者数日本一、大和市の誇りであろうし、文化的都市としてのイメージをふくらませる。横浜市や町田市の隣の自治体、独自色を発揮したいとする姿勢は、大和市を埋没させずに期待感を与えてくれる。

 読書は、どれだけ教育的効果があるか。人の心を耕しつつ糧となる。が、入試戦線が激烈になるにしたがって、若者は本を読まなくなってしまった。テレビの発達もあろうか、読書は遠のくばかりである。

 スマホを頼りにして、己の創造力や感性を磨くことを忘れてしまった人たち。売れるのはマンガ等の雑誌ばかりだ。本屋大賞やさまざまな賞を出して、読者を刺激しているが読書を趣味にする人たちは減少の一途をたどる。これでは日本の活字文化は、新聞とともに消えてしまうと私は本気で心配する。

 そこで、各自治体、教育委員会は、大々的に「読書コンクール」等を開催すべきだ。短編の小説、エッセイ、戯曲等の募集もいいし、感想文を募るのもいい。住民に本を読ませる工夫、きっかけについて考慮してほしい。知性の始まりは書物からだと私は信じている。本に親しむ住民を増加させるための大作戦を展開すべく知恵を出していただきたい。

 いつの間にやら、読書離れが進行中だ。本屋さんのない自治体も増えた。私はアマゾンで古本を買うクセがついてしまったが、求めた本を手中にしたとき、至宝の喜びを感じる。

 
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