【ポスト・コロナ時代に向けた宿泊施設の取り組み37】今回のウイルス感染症から今後求められる安全対策のあり方を考える 観光品質認証協会統括理事・サクラクオリティマネジメント代表取締役 北村剛史


北村氏

 新型コロナウイルス感染症の広がりを俯瞰しますと、ウイルス自体は分離や増殖等ができない、つまり生物ではないものの、遺伝子の変異やアミノ酸の変異を常時繰り返すという①「揺らぎ」を持っています。また、宿主細胞との結合という②「外部と関係を持つネットワーク」を構築し、宿主細胞の免疫システム等を介した③「外部からの情報フィードバックとそれに基づくフィードフォワード(解決策)」を発現させています。この揺らぎ、ネットワーク、フィードバックとフィードフォワードが揃うと生じる現象を「自己組織化」と言います。

 ウイルスそれ自体は生物でもなければ意思もない、人にとっての「異物」でしかありませんが、上記システムを有することから、自己組織的に次々と新たなゴール(秩序)を追求するような振る舞いを見せています。それはあたかも生物の自然選択、つまり、周囲の環境に適するように進化する過程を見ているかのようです。

 観光宿泊産業はその経済的規模や裾野の広い利害関係者を背景に非常に大きな影響力を有しています。そうであればこそ、それに対峙する我々も、ウイルスが引き起こしている自己組織化のスピードを凌駕し、宿泊施設等の関係事業者間で壮大なネットワークを形成して英知を結集すること、さらには常に新しい情報を常時受け付けて、環境に応じて個々施設の最善策を柔軟に且つ長期的な視点で徹底追及する姿勢、つまりウイルスに対する対抗力の自己組織化を追求することで、ウイルスが引き起こしているであろう上記のシステムをシャットダウンさせ、またその取り組みを「モデル」として世に示す必要があるのではないでしょうか。

 さらにこの取り組みは、宿泊施設が地域への貢献を通じて地域とのネットワークや宿泊施設間のネットワークを再形成し、常に最上位の防災機能を追求する組織機能を「揺らぎ」として持ち、地域からの情報フィードバックを受け改善策を追求することで、災害対策をも強化することに繋がるはずです。宿泊観光業界から強固な安全対策を打ち出すこと、また地域に貢献することで高度な災害対策にまで昇華させることが今後の宿泊観光業界の課題でもあります。

 運営戦略上も、2020年より前とコロナ禍後の宿泊市場を比較しますと、A→B→「A」ではなく、A→B→「C」と全く異なる環境に到達することになり、自社の強みの棚卸し、個人市場や近場のマーケットに訴求する手法やリピーター層等ターゲット顧客の明確化とそれら顧客に提供できる明確で分かりやすいメリットとは何かを見直すこと等、新たなビジネスモデルの模索も要求されるはずです。今後は、「対策」ではなく「戦略的」な感染症対策の構築とビジネスモデルの再構成、この両輪の整備こそ、新たな市場におけるサステナブルな業界発展に繋がるはずです。

一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS 北村 剛史

 
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