【ちょっと よろしいですか 127】旅館料理と旅先のごはん 山崎まゆみ


 知人から「旅館料理はおいしいが量が多い。少量で出してもらえないものか」とよく相談されます。今では、食事の少量プランを出している宿もありますが、一般的には、まだ食事の量は選べません。

 かつて訪日観光客のドイツ人に「フィックスされた旅館料理は量が多いから、好きなものだけを選べないのか」と尋ねられたこともあります。その時は、「伝統的な懐石料理のスタイルなので難しい」と説明しました。

 旅館やホテルに泊まる大きな楽しみは料理ですが、その料理にさまざまなリクエストがあるのは確かです。多様性への対応が求められる時代とはいえ、全てに応えることは困難ですが、もし参考になればと、本原稿は、ごくひとりの旅人として、興味深かった旅先での食事をご紹介します。

 山形県の庄内地方には、冬の日本海の味覚のごちそうが待っています。

 今年最初の出張が庄内行きでした。前日からの寒波による大雪と強風で、予約していた羽田空港から庄内空港までのフライトが「欠便、遅延の可能性がある」と連絡が届き、ヒヤヒヤしましたが、結果的には舌とお腹を大満足させてくれる旅となりました。

 旅館でいただく懐石料理は先付、吸い物、刺し身、焼き物、酢の物、炊合、蒸し物、揚げ物、ご飯・みそ汁・香物、水物という流れが一般的。名物となるメインにたどり着くまでに、既に満腹気味になるのが常。

 宿泊した山形県湯野浜温泉「亀や」さんの夕食のメインとなる食材はふぐ、かに、あんこうという豪華なラインアップ。ぜいたくな食材で懐石料理を構成したのは、調理長の発案と聞いていますが、その英断と斬新さに感心しきり。実に創造的だったのです。

 献立には「~大雪~ 雪が降り始める時節 寒さが日ごとに増し冬一色の頃」と、時候のあいさつの後に、

 「とらふぐ」は煮凍り、皮と浅月の酢みそ和え、七味唐辛子漬け焼き、唐揚げ、薄造り、ひれ酒

 「ずわいがに」はゆで、焼き、甲羅玉元焼き

 「あんこう」は鍋、肝蒸し、雑炊、お漬物

 これらメインしかない献立を見て、「スタートダッシュをかけていいのね」とほほえんでしまったのです。

 ここに鶴岡の地酒を合わせて至福の時を過ごしました。

 湯野浜温泉は目の前に広がる浜が遠浅で、海水浴には絶好のロケーションだから繁忙期は夏。でも冬の庄内は、このめくるめく芳醇な食事が待っています。いくら庄内空港の欠便率が高いと示されても、十分な訪問理由になります。

 もう一つの例として、1月に訪問した鹿児島でのこと。

 きっかけは友人の「桜島大根を産地に食べにいきませんか。今しか食べられないんですよ」というフレーズ。

 1月末から2月上旬にしか食せないという体験の価値。桜島に渡ってこそ、という希少さ。心が動き、予定していたフライトを後ろの便に延ばして桜島に向かったのです。

 フェリーに乗って桜島に到着すると、世界最大の大根「桜島大根」23・6キロが出迎えてくれました。

 桜島大根を有機栽培しているという「カフェしらはま」で、大皿に所狭しと、桜島大根(以下、大根とする)ステーキ、大根のから揚げ、大根と桜島小みかんのなます、大根サラダ、大根込みの野菜炊き、大根入りポテサラ、大根の炊き込みご飯がよそわれ、大根のポタージュと、大根のみそ汁が付きました。

 記憶に残ったのは大根のから揚げ。水分が少なめの桜島大根ゆえの揚げ物で、ほくほくして最高に美味でした。

 「今しか食べられない」って、魔法の言葉ですね。そして「亀や」さんの豪勢料理といい、桜島大根尽くしといい、思い出深い体験です。

(温泉エッセイスト)
       

 
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