11月末にエコ・小委員6名で和倉温泉に行きました。環境省脱炭素ビジネス推進室の「地域ぐるみでの脱炭素経営支援事業」の対象地域の一つが和倉温泉で、持続可能な震災復興を目指すには、脱炭素の視点が欠かせません。和倉温泉では2軒の旅館の簡易診断を行い、エコ・小復興セミナー「持続可能なエネルギー利用の適正化」を開催しました。能登半島の地震と水害の甚大な被害から、各地の旅館の経営者は「他人事」ではないと言っています。一世代30年間で大きな災害に見舞われる確率は大きく、それを乗り越える知恵を持たなければ旅館の生業は次の世代につなげません。
今までは小さなエネルギーでエコロジカルに運営することで活動してきましたが、それに加え災害に対応する必要性を感じました。自然の力に正面から立ち向かうと要塞みたいな建物になり、自然に親しむリゾート施設と相いれません。甚大な被害をもたらす自然災害からの被害を少なくし、復旧しやすい施設にしたいです。
日本列島は四つのプレートに乗り、高温多湿のアジアモンスーンの風土条件から多様性ある自然景観と豊かな緑に恵まれる半面、昔から地震と台風、大雪に見舞われてきましたが、気候変動の影響から線状降水帯の豪雨被害が加わりました。その上、都市的な環境に慣れ、自然の猛威、気候の変化に対する備えがめっきり弱くなっています。昔の人が自然環境と共生してきたようにパッシブな取り組み、要するに太陽光、太陽熱、風、水や温泉などの身近にある自然エネルギーをそのまま上手に利用することに目を向けたいです。
とは言っても高原でも冷房が必要なほど地球環境が変わっているので、今までの安価な化石燃料に頼る考えから方針転換する必要があります。中央式空調より、設備を分散したヒートポンプエアコンの方が省エネで、災害時に中央式と違って全滅せず、また温泉量に見合った浴槽容量にすれば源泉温度が40度もあればボイラーが壊れても入浴できます。設備配管もシンプルにしておけば被害も少なく、復旧も容易です。薪(まき)ストーブを入れた旅館の女将は、東日本大震災の時にあったら良かったと言いました。
旅館には無駄な空間が多くそれだけ被害が大きくなるので、個人客向けにシンプルでコンパクトにして被害を減らし復旧しやすくしたいです。海水温が上がれば地域的には豪雪になる可能があり、これからは気候変動で予測不能なことが起きると思います。和倉温泉の簡易診断を行って、宿泊施設のあり方を考え直す時に来ていると感じました。
(国際観光施設協会理事 エコ・小委員長、JIA登録建築家、佐々山建築設計 佐々山茂)
(観光経済新聞1月6日号掲載コラム)