戦略特区構想、旅館・ホテル業界が危惧


 地域を限定して大胆な規制緩和を進め、さらなる経済発展を目指す「国家戦略特別区域(特区)」構想で、マンションやアパートの空き部屋を外国人観光客向けの宿泊施設として利用できるよう、国が規制を緩和する方針だ。訪日外国人が格安で長期滞在できるようにするための施策だが、旅館・ホテル業界は「経営を脅かす問題だ」と危惧。東京都ホテル旅館生活衛生同業組合は「治安維持や公序良俗に大きな影響を与える」として、都議会自民党観光産業振興政策研究会に反対の要望書を提出した。

 旅館業法では、宿泊期間が30日未満の施設では、フロントを設けなければならないなど、旅館・ホテル経営者にさまざまな規制を設けている。

 政府は国家戦略特区に指定された地域に限り、これら旅館業法による規制を外し、一般のマンションやアパートでも外国人観光客を泊められるようにする。ただ、「旅館・ホテルとの棲み分け」の観点から、政令で7〜10日以上の連泊客に限定。期間は各自治体の条例で定められるが、東京都では4日以上の連泊客の宿泊も可能としたい方針だ。

 国家戦略特区には、第1弾として東京都の9区(千代田、中央、港、新宿、文京、江東、品川、大田、渋谷)、神奈川県、千葉県成田市の首都圏と、大阪府、京都府、兵庫県の関西圏、また沖縄県、福岡市、兵庫県養父市、新潟市の名前が挙がり、今月中に正式に区域指定を受ける。その後、特区ごとに国と地方自治体、民間による会議が開かれ、早ければ今夏にもマンションでの外客受け入れを含めた特区内での事業が決定、始動する。

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)の佐藤信幸会長は、15日に東京都内で行われた全旅連青年部定時総会であいさつし、特区構想に伴う宿泊客受け入れの規制緩和について、「東京五輪の開催で、特に大都市で外国人客を泊める部屋が足りなくなるという話が出ており、民間のアパートを旅館・ホテルの代わりにしようとしているが、全旅連としては大反対だ」と述べた。

 東京都ホテル旅館生活衛生同業組合は7日、都議会自民党観光産業振興政策研究会の高島なおき会長あてに、規制緩和に反対する要望書を提出した。

 東京都のホテル経営者は「2020年のオリンピックに向け、宿泊施設の不足を懸念してこのような施設を開放しようとしているようだが、東京でみれば宿泊施設は十分に足りているはずだ」「われわれは旅館業法にのっとり、消防など人の命にかかわる設備対応をするなど、多大な投資をしてきた。さまざまな法規制のもとに営業をしてきたわけだが、今回の特区構想でそれが簡単に崩されてしまうのは納得がいかない」「世界一の安心安全を標榜する日本で、そのような施設がテロの拠点になったりしたら、特区構想どころではないはず。安心安全の面で何が起こるか、大いなる疑問が残る」と述べている。

 またある旅館・ホテル団体のトップは「既存の宿泊施設は消防法、食品衛生法を順守し営業しており、さらに最近は耐震建築の申請まで加わり、これらをクリアすることで大変苦労している施設まである」「アパートやマンションも外国人客を泊められることになれば、お客さまの安全はどのように守られるのだろうか。善意の人たちばかりでなく、この特区構想を商売にする人が出てくることは明らかだ。おもてなしを大切にする日本であれば、これらを十分考慮した上で施策を進めていただきたい」と話している。

 
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