石川県能登町の宮地、鮭尾集落で農業体験を中心にした滞在型観光に取り組む「春蘭の里」の地域づくりに、ホスピタリティツーリズム専門学校(東京都中野区)の学生が2007年度から参加している。旅行学科の2年生による地域活性演習の一環。今年3月に卒業した08年度の2年生たちは、地域住民との交流を深め、現地での修学旅行生の受け入れに携わったほか、体験プログラムを考え出して地域に提案するなどの積極的な活動を展開した。
宮地、鮭尾集落は、住民の高齢化に悩む農村だが、有志の住民らが実行委員会を組織し、地域一帯を「春蘭の里」と銘打って農家を改築した民宿などを整備、修学旅行や一般旅行者の誘致に取り組んでいる。
旅行会社などへの就職を志す学生たちとの交流を地域づくりに活用したい、という実行委員会からの依頼にこたえ、同校では、春蘭の里での地域づくり活動を授業に取り入れることにした。
2年目となる08年度には、学生10人が7月から8月にかけて1カ月間ずつ春蘭の里に滞在した。期間中には、同地を訪れた金沢市内の小学校の修学旅行生の受け入れに協力。各民宿に分宿する子どもたちの班別活動などをサポートし、地域住民にも、小学校側にも好評だった。そのほかキノコ狩り体験ができる付近の山の歩道整備などにも学生たちが活躍した。
滞在期間にとどまらず継続して春蘭の里の活性化について考えた。学生たちは(1)東京PRチーム(2)体験プログラム考案チーム(3)おやどマップ作成チーム──の3班に分かれ、それぞれの課題に取り組んだ。
東京PRチームは、同校の文化祭に春蘭の里の宣伝ブースを設置、来場者らに地域の魅力を紹介した。春蘭の里から実行委員会のメンバーらが駆けつけたことで、来場した近隣の小学生らにワラ細工づくりを教えるコーナーも開設できた。
体験プログラム考案チームは、滞在中に調査した地域資源を基に、10種類以上のプログラムを考え出した。鉄道の廃線を巡る散策、美しい清流を生かした流しソーメン体験など、ユニークな企画を地域に提案した。
おやどマップ作成チームは、農家民宿などの位置を示したカレンダー付きイラストマップを製作した。
学生たちの地域での活動について、民宿「春蘭の宿」を経営する多田寛子さんは、「地元の人間とは異なる視点、若い人たちの発想がとても新鮮で地域づくりの参考になった。授業以外でも春蘭の里を訪ねてくれるようになり、若い世代との交流で地域の人たちにも活気が出てきた」と話した。
学生たちはこの春卒業し、旅行会社への就職などそれぞれの進路に進む。地域活性演習を担当した同校旅行学科講師の高橋森哉氏は「地域との交流は学生たちに貴重な経験となったはずだ。彼らは、これからの観光で重要さを増してくる着地型旅行を担っていく世代でもある。地域とともに新しい商品や新しい業態を生み出していく力にしてほしい」と期待した。
同校では、09年度の地域活性演習にも、春蘭の里での活動を取り入れる予定だ。
地域住民との交流も深まった