JTBによると、今年の夏休み期間(7月15日〜8月31日)の国内旅行客は前年同期比4%増の7412万人となり、リーマンショック以前の、08年夏の7348万人を上回る見通しだ。企業業績の回復で夏のボーナスがやや増える傾向となり、「旅行意欲が前向きになっている」という。旅行会社や観光地の旅館組合、観光協会などに手応えを聞いた。
旅行会社
KNTの国内企画旅行商品ブランド、メイトの契約状況(人員ベース)は7月が前年同月比1%減、8月2%減。昨年はシルバーウイーク(SW)で好調だった9月だが、今年は28%減と落ち込んでおり、「7〜8月の商戦で何とか数字を引き上げたい」という。
方面別では北海道、沖縄などロング商品が好調。また、平城遷都1300年祭が奈良で開催されていることや、昨年の新型インフルエンザの反動などから、首都圏発関西方面商品は7月38%、8月34%のそれぞれ増加となっている。
5日現在の受注状況(人員ベース)は7月が5%増、8月前年並み、9月30%減というのは日本旅行。「9月の不振はSWの反動」。方面別(7〜9月計)では奈良を含めた京阪神が20%増、九州10%増で、特に九州は「龍馬」効果が出ている。夏休みの目玉商品の1つは「静岡ガンダムオフィシャルツアー」など、子どもが主役で、家族で楽しめる商品という。
「1日現在の予約状況は人員ベースで1%増」と阪急交通社。東北、近畿、四国、沖縄が好調。例えば「谷瀬の吊り橋と瀞峡・熊野古道・お伊勢さん詣3日間」は前年比50%増という売れ行き。九州地方は口蹄疫の影響で芳しくない。
「前年並みか、ちょっとプラス」というのはクラブツーリズム。バス旅行は近場、日帰り商品が好調で、特にスカイツリー見学コースは人気だ。「近場で渋滞を避けたいという心理も働いているのでは」とみる。
トップツアーの予約状況(人員ベース)は、7月が前年並み、8月3%増。商品別では東京ディズニーリゾートが124%増と好調。一方、「JR利用で、1泊圏内として人気だった伊豆方面の企画商品が低調」という。高速道路無料化施策などが影響しているとみる。
「1日現在の予約状況は人員ベースで10%増程度」とはとバス。首都圏近郊のバスツアーが好調だが、「特にスカイツリー関連は満席状態が続いている」と嬉しい悲鳴。今月末には400メートルに達しそうで、「秋以降も人気のコースになるのは間違いない」という。
ANAセールスの国内旅行(募集型企画、受注型手配旅行)の予約状況は、人員ベースで7月が1%減、8月4%増。第1ブランドの「ANA’s」が堅調で、7月8%増、8月23%増。北海道、沖縄、関西、中四国が人気を集める。このほかダイナミックパッケージは7月21%、8月41%のそれぞれ増加と好調のようだ。
温泉・観光地
夏休みに向け、テレビドラマや大型イベントなどの話題性のある観光地が人出を集めそうだ。他の観光地では宿泊予約は間際化しており、本格的な動きはこれからだ。
NHK大河ドラマ「龍馬伝」で人気の高知。高知県土佐・龍馬であい博推進課によると、1月16日オープンの龍馬博メーン会場「高知龍馬ろまん社中」の来場者数は7月11日現在で33万8112人と好調。日曜・祝日の平均は約3400人。「ゴールデンウイーク(GW)期間には1日の来場者が約5千人に上った。高知市内では8月9〜12日にはよさこい祭りもある。お盆前後にはGWを超える人出を期待している」(同課)。
「龍馬伝」の舞台は今後、長崎に移る。「ドラマの進行に合わせ、宿泊予約も入り出すと期待している」と長崎県の雲仙観光協会。家族客の予約はすでに入り始めているが、個人客はこれから。旅館組合の加盟施設では今月17日から、龍馬、お龍夫婦にちなんだおしどり懐石プランなどを提供し、集客に乗り出す。
半面、昨年の大河ドラマ「天地人」で湧いた山形県南部、米沢市の小野川温泉は、“天地人フィーバー”の反動もあり、予約状況は低調だという。同温泉旅館組合は「7月はホタル鑑賞目当ての利用者で堅調だが、8月は盆休みの日並びの影響もあって、混雑している期間は短い」と話す。
大型イベントでは奈良県の平城遷都1300年祭が話題。メーン会場の平城宮跡の入場者数は、4月24日のオープン以来、157万2千人(7月11日現在)とハイペースだ。「メーン会場の集客だけでなく、県内各地の秘仏の特別公開なども夏の宿泊需要の喚起につながっているようだ。遷都祭の後も『宿泊は奈良に』とリピーター化してもらえれば」(奈良県旅館・ホテル生活衛生同業組合)。
マイカー旅行者の動向を左右する高速道路料金。今年のお盆期間にはETC搭載車への「休日上限1千円」の特別な適用はなく、暦通りに土・日曜が適用日となる。6月からスタートした高速無料化実験の周辺観光への影響も限定的と言えそうだ。
周辺道路が無料になる山梨県の河口湖温泉旅館協同組合は「交通量が増えたり、車の流れが変ったりしているが、宿泊につながるかは分からない」。無料区間に近い山形県の湯の浜温泉も「無料区間の利用が見込まれる内陸部の旅行者は宿泊に絡まないことが多い」(同温泉観光協会)。一方、北海道の層雲峡温泉などには無料化に合わせた宿泊プランを展開している宿泊施設などもある。
宿泊予約の状況では、「旅行会社のツアーの催行率が上がり、満室の日が続いている宿泊施設もあるようだ」(層雲峡観光協会)などの声もあるが、間際化を指摘する声は今年も多い。「予約の動きは鈍い」(北海道の川湯温泉旅館組合)や「参院選もあり、個人客の動き出しが鈍い」(秋田県の男鹿温泉郷協同組合)。近年の天候不順もあり、天気予報を踏まえて間際に予約する人が多いという指摘も出ている。