ニューノーマル時代における新たな学びを
私事ではあるが、西暦2000年という世紀の節目に観光学の教員をスタートし二十余年が経つ。教員になった当初は、まだ観光系学科を有する大学は少なく、私のような「温泉」を専門とする観光学者は珍しがられたものである。今ほどに観光立国の気運が高まっていたわけではなく、ビジット・ジャパン・キャンペーンで発表されたインバウンド1千万人という目標が夢のような数字に思えた。それだけに、その後の1千万人、2千万人、3千万人突破の報は、その都度大きな衝撃を受けた。コロナ禍がなければ、いったいどこまで数字を伸ばしたことだろうか。
これまで出会ってきた多くの教え子は、観光の世界に大いなる夢と憧れを抱きながら学び、観光に関わるさまざまなフィールドにプロとして巣立っていった。
そして最近になり、昔の教え子から突然連絡を頂くことが多くなった。昔の思い出話に花を咲かせることはあまりなく、どちらかというと人生相談のような、しかも大概ネガティブな話題に終始する。私を恩師などと呼び、まさにわらにもすがる思いで数年ぶりに連絡してきてくれる昔の教え子の存在に、うれしい気持ちもある半面、複雑な思いで予期せぬ形での教え子との再会(Zoom)が続き、感慨にふける。
ここ数年、言うまでもなく世界中の観光業界が大打撃を受けた。感染症や災害・戦争・経済不況等、他律的な影響を受けやすい観光の脆弱(ぜいじゃく)性が改めて露呈したことにより、観光学を学ぶ学生たちも、大きな不安感を抱きながら暗中模索の日々を送っている。一方で、授業中に国連世界観光倫理憲章の中の「地球の魅力を発見し、楽しむという側面は、全世界の住民に平等に開かれている権利」を紹介した際、学生たちの大きなうなずきとまなざしに、たくましさと希望の光を感じ、逆にこちらが勇気づけられるとともに、改めて観光教育者としての責任を実感した。
最後に、私が所属している杏林大学の観光教育について少し触れたい。本学では2020年度より「ウェルネスツーリズム」に特化したプログラムが開始し、本学の強みである医療・保健分野と観光分野とのクロスオーバー教育を図るとともに、観光業・自治体と連携し、「地域・観光×健康・医療」をテーマとした新たな学びの構築を模索している。医療系学部を有する本学ならではの、ニューノーマル時代に対応した新たな観光教育の創出を図るとともに、地域社会や観光産業において有用な人材の育成を目指していきたい。
小堀氏