道がつくる地域の未来
米国東部アパラチア山脈沿い、ジョージア州からメイン州にかけて、約3500キロの「歩く旅の道」がある。年間約2千人が半年間もの踏破に挑戦し、部分利用も含めた年間訪問者は400万人に及ぶ。
このアパラチアントレイル(AT)の構想は1921年、都市計画家のベントン・マッカイにより「地域計画」の一環として発表された。自然を直接体験し自然の保全と活用について本質的な理解を促すためでもあった。ATは100年間、行政や企業、地域住民、ハイカーなど多くを巻き込み、米国の歩く旅の文化を形成し、後続トレイルをけん引している。
AT構想から50年後の1969年、日本はATを視察し、高度成長の最中に歩く速度で自然や地域に触れることの大切さ、人間性の回復をうたい「長距離自然歩道」の構想を発表した。
過去の「歩く旅の道」が掲げた思想は現代社会に通じる普遍性を持つ。むしろ、課題を抱えSDGsのゴールに向かう世界にとって、今まさに必要とされる気づきの場が、ロングトレイルと言えるのではないか。サステナブル・アドベンチャーツーリズムの格好のフィールドでもある。
みちのく潮風トレイル(MCT)は、長距離自然歩道50周年の節目に、東北沿岸千キロを超える歩く旅の道として全線開通した。環境省の復興事業の一環で、4県28市町村が広域連携で取り組み、ルートは地域住民らと共に検討された。全通後、地元含め国内外から多くのハイカーが訪れ「歩いて東北を応援したい」との声も聞く。旅行会社も魅力地点をつなげたツアー造成をしてくれている。大きなバックパックを背負い歩く人を見て、受け入れに尽力してくれる地域も増えた。延べ50日も東北沿岸に滞在するため、薄く広い経済効果も期待される。
MCTには憲章があり、最後に「みんなで育てる道」とうたう。MCTを「地域計画」とするゆえんだ。子どもはハイカーに手を振り、大人は立ち話やお茶を提供し、自治体は地図やホームページを整備し、トイレや電源を貸し出す商店もある。皆が無理なく参加し、その集積がトレイルを守り育て、結果ハイカーを魅了し、交流、関係人口増加、移住促進につながる。多くの来訪者を受け、皆が地域を誇りに思い、少しずつ関わりながら穏やかに暮らせる日常が、結果持続可能な地域、観光地となる。
ありのままの地域の日常が歩く旅の魅力。町と自然を長くつなぎ、歩く速度で地域を体験し自らに向き合い、自身の生きる力を確かめる歩く旅が、持続可能な未来をつくるのではないか。
相澤氏