【VOICE】「生活文化観光」の重要性 跡見学園女子大学副学長 観光コミュニティ学部教授 塩月亮子氏


跡見学園女子大学副学長 観光コミュニティ学部教授 塩月亮子氏氏

観光を通した平和構築に向けて

 私はこれまで沖縄やミクロネシアなどの島々で、宗教を中心に文化人類学的観点からフィールドワークを行ってきました。その中で、現地の人々から第2次世界大戦の体験談やその後の出来事などを聞く機会を多く得ました。例えば、沖縄ではガマ(洞窟)に先の大戦で亡くなった人の遺骨や遺品がたくさん残っており、ガマフヤー(ガマを掘る人)がそれらを収集して遺族に返す活動をしている、あるいはユタ(民間巫者(ふしゃ))が、いまだに浮かばれない戦死者の霊を供養して歩いているなどの話です。また、戦前、日本の植民地だったミクロネシアでは、戦時中、日本兵のために現地の人々が畑を作ったのですが、「空襲で畝が曲がってしまう」と、そのときの状況を歌にして歌ったことや、ゼロ戦や沈没した軍艦を、今の日本の若者が怖いもの見たさで見に来ることも教わりました。

 戦跡を見学することや戦争体験者の話を聞くことは「平和学習」や「ダークツーリズム」と呼ばれ、すでに観光の一部として実施されています。ロシアのウクライナ侵攻をはじめ、世界が危機的な状況に向かっている現在、その必要性は一層高まっていると考えます。

 10年ほど前、観光を教える学科に赴任することとなり、私は文化人類学の視点から観光をもっと生かす方法はないか、模索していました。そのような折、観光を平和構築につなげるスピーチを聞き、「これだ!」と思いました。それは、2015年にパレスチナ人のアジズ・アブ・サラさんがTEDで講演した「寛容さを育むため、観光に出かけよう!」というスピーチです。民族間の対立を解消するための観光旅行の提案で、彼はパレスチナ人とイスラエル人の旅行ガイドを雇い、それぞれの立場から歴史や文化を観光客に解説し、お互いの生活文化を体験する旅行を実践していました。

 異文化交流を通じて相互理解を育むことができるのは、観光の持つ大きな力といえます。それは、何か特別に観光用につくられた場所を見たり訪ねたりするのではなく、普通に食べて歌って買い物をする人々の暮らしぶりを観光客が見、体験することで達成されます。現地の日常を体験する「生活文化観光」は、文化人類学で行っている異文化理解のためのフィールドワークに極めて近いものと捉えられます。

 今後の観光では、「平和学習」や「ダークツーリズム」はもちろんのこと、現地との協同で実現する平和構築の可能性を秘めた「生活文化観光」を充実させていくことが、ますます重要となっていくのではないでしょうか。

跡見学園女子大学副学長 観光コミュニティ学部教授 塩月亮子氏氏

 

 
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