1970年代に活躍したフォークグループNSP、最大のヒット曲「夕暮れ時はさびしそう」は、JR一ノ関駅の発車メロディに採用されている。メンバー3人が地元・一関高等専門学校出身という縁からだが、すでに作詞・作曲、ヴォーカルを手掛けた天野滋さん、ギターの中村貴之さんが死去、ベースの平賀和人さんがその音楽を引き継ぐ活動を続けている。5月5日には一関市内で、「ロード」のヒットで知られるThe虎舞竜の高橋ジョージさんと「NoSP」としてNSPを歌うライブを行い、全国からファンが集まった=写真。
高橋さんはNSPの大ファン。宮城県出身で一時期、一関市内の高校に通っており、同郷のNSPデビューに大いに影響を受け、初期のアルバムを完全コピーするほど入れ込んだ。テレビの歌番組で生前の中村さん、平賀さんとNSPの歌を共演したこともある。
「NSPがデビューした1972年ごろは、1970年に解散したビートルズのフォロワーをみんな探していた。僕にとっては日本ではそれがNSP。同郷で、天野君の詞の世界が僕にはよく分かる。石川啄木や宮沢賢治のように妄想と現実の端境にあるという感じかな。『ロード』で歌っている雪のシーンは、天野君の詞の世界を参考にしています。NSPがスケッチならば、ぼくはそれを油絵にしたようなイメージ」
天野さん死去後の2007年7月に都内でNSPのトリビュートライブが行われ、残された中村さんと平賀さんが、高橋さん、南こうせつさん、細坪基佳さん(ふきのとう)、Charさんなど縁のあったミュージシャンを招いて共演した。高橋さんはその場で多くのファンに囲まれ「NSPをやって下さい」と頼まれたという。NSPの音楽を理解し再現できる人という信頼からだ。それが今も変わらぬ支援につながり、5月のライブの実現となった。「NSPはもっと評価されていい。一関市はモニュメントを作るなど工夫してくれてはいるけれど、彼らの歌を後世に引き継いでいくような仕掛けを、もっと進めてほしい気もしますね」と高橋さん。
いっぽう平賀さんはシンガーソングライター、ゆりえさんと、「YSP」というグループを組んでNSPの歌を歌い継ぐ活動も続けている。30歳代でNSPの現役時代は知らないが、通った音大の授業で世界各国、さまざまなジャンルの音楽を聴く授業があり、NSPに出会った。その後コミュニティFMの音楽番組のパーソナリティを務めた際に平賀さんをゲストに招いたことが縁で、2人で月1回の番組をやることになり、毎回NSPの歌を弾き語りしていた。「私がやるのは『リメイクカバー』。平成生まれの私ならではのアレンジで、メロディや詞の世界を損なわないように歌っています」とゆりえさん。YSPとしてのライブを12月に都内で行う。
「僕らの世代と若い世代が一緒にNSPを応援してくれるのはうれしい」と平賀さん。9月16日には都内で細坪基佳さんと共演するライブも控えている。
※元産経新聞経済部記者、メディア・コンサルタント、大学研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社)、「駅メロものがたり」(交通新聞社新書)など。