昨年から標高1500メートルの山岳地帯で宿泊施設の温暖化対策の調査をしています。調査対象の建物はいずれも築40年前後の木造建築で、高度成長期の観光ブームによって建てられています。日本建築は吉田兼好の徒然草に「家のつくりやうは夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる」とあるように夏向きですが、冬期にマイナス20度になる地域でも同じように建てられているのには驚きました。
1階床はフローリングのすぐ下が土のままで断熱がなく、壁と天井には50ミリのグラスウールが入っているものの長年の使用で隙間ができて断熱効果が減っています。窓はアルミサッシュに単板ガラスで、当時のアルミサッシュは結露水を逃がす穴があり、気密性が弱く隙間風が入ります。冬の暖房は外気温がマイナス10度で室温設定を20度とすると30度の差になり、夏の冷房は外気温が35度で室温を25度とすると10度差で暖房負荷の方が3倍も大きく、寒冷地では断熱をしっかりする必要があるのです。
外に逃げる熱が大きい断熱性のない建物を高性能エアコンで暖房しても地球を暖めているのと同じです。北海道と同じ緯度にある、ドイツを含めた北ヨーロッパの建物は魔法瓶のように建物全体を30センチの断熱材で覆い、窓は三層ガラスです。既存建物は外壁、屋根は外断熱、窓は二重サッシュにすることが是非とも必要です。
断熱と同時に外気を必要以上に入れないことも大切です。寒冷地では風除室で前後の扉が同時に開いて外気が入らない配慮が必要です。風除室を二重にして外気を防ぐ対策をとったこともありました。換気することは同じ量の外気が室内に入ることになり、空調負荷になるので、厨房やトイレなどで換気扇の回しっぱなしに注意が必要です。コロナ禍で換気の重要性を認識されたと思いますが、全熱交換器で熱を回収して汚れた空気だけを排出することも考えたいです。
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