この春、近所にタイ料理屋がオープンした。開店直後に緊急事態宣言が発出され、折しもコロナ禍自粛真っただ中に突入。そのため当初は、テイクアウトのみで対応していたそうだ。
さぞご苦労されただろうし、不安も一杯だっただろう。だが、それをみじんも感じさせないステキな笑顔でもてなしてくださる、フロア担当の奥さま木下歩美さんと、調理担当のご主人ナムケット・モンチュリーさんご夫妻。そう、彼がタイ人だから、この店では本場の味が楽しめるのだ。
店名は「MAKIN」。タイ語で「来て」という意味のMAと、「食べる」という意味のKINで「食べに来てね」という気持ちを込めたそうだ。元ホテリエだったという歩美さん、サスガに目配り気配りが素晴らしい。2度目の訪問時、まだあまり会話をしたこともない筆者をしっかり覚えていてくださり、「お飲み物はワインでしたよね?」と。
味もサービスも良いから、ランチ時はオープン後スグ満席になってしまうほどの人気ぶり。その約8割がオーダーしているのが、同店メニューにタイ語で「パッ・ガパオ」と記されている、通称ガパオライスだ。
そもそもガパオとは、タイ料理でよく使われる「ホーリーバジル」というハーブのこと。シソ科メボウキ属カミメボウキという植物で、バジルと言ってもイタリア料理で使う「スイートバジル」とは、近縁種ではあるが別物だ。つまり、ガパオライスと言うと、タイ語ではホーリーバジルご飯ということになり、タイ本国では通じないらしい。
同店メニューの「パッ」は炒めるという意味だそうで、「鶏ひき肉のホーリーバジル炒め」と日本語の解説も併記されていた。タイの料理名は調理法と食材で表すことが多く、世界三大スープの一つ「トムヤムクン」も、煮る「トム」、混ぜる「ヤム」、海老「クン」が合体した名称なのだ。
実は筆者、日本で言うガパオライスが大好物で、自分でもよく作る。ホーリーバジルは簡単に手に入らないのでスイートバジルで代用するが、あとはひき肉とタイの魚醤(ぎょしょう)ナンプラー、そして砂糖とオイスターソースさえあれば、何となくそれっぽいモノができる。もちろん唐辛子も入れて、彩りに赤や黄色のパプリカ、緑のピーマンなども放り込み、仕上げにカリッと焼いた半熟目玉焼きを載せれば、割と時短料理なのに見栄えも良いのだ。
でもやっぱり、プロの味は違う。まずはひき肉。特別にひいてもらっているという鶏ひき肉は、かなり粗め。そして、日本だからと手加減しない辛さに全身の毛穴から汗が噴き出す。でも、うま味も甘味もあって、タイ米といただくと、いくらでも食べられそう。
他にも鶏肉入りグリーンカレーや、タイ風焼きそばパッタイ、プーパッポンカリーのカニをお手軽にした「海鮮のふわふわ卵とじカレー」など、おいしいモノが目白押し。同じ町内にこんなお店ができて、タイ料理好きにはうれしい限り。また食べに行きタイな♪
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。