
前回ご紹介した、東京會舘の「ローストビーフ&グリル ロッシニ」でいただいた、思い出の味の続き。
公式サイトに「東京會舘の味を求めるならここ」と掲載されている同店。伝統の味を受け継ぐ料理として、「ロッシニ自慢の一皿」と紹介されているのがローストビーフだ。コレも今回の目的の一品である。
厳選した牛肉に丁寧な下処理を施し、じっくり4時間もかけて低温で焼き上げた肉を、さらに寝かせるのだとか。焼き加減は温度計を使わず、体で覚えるというからオドロキ! 添えられたグレービーソースは、野菜を使わず1週間煮込んで肉のうま味だけを閉じ込めたモノ。提供する際は、婚礼などの宴会でもレストランでも、必ずお客さまの前でカットするのが同舘の流儀だそう。今回は牧野真治調理長自らがカットして下さり大感激♪
国産牛のローストビーフは、通常レストランで提供されておらず、同店ではUSまたはNZ産を使用。当日はNZ産だったが、十分美味。ジューシーで軟らか、確かに自慢の一皿と言いたくなる逸品だ。グレービーソースはうま味タップリ、さすがプロならではの味。
最後に、コレだけは外せない一品が「マロンシャンテリー」。普段あまり甘い物を口にしない筆者が、一番好きなスイーツだ。同舘初代製菓長勝目清鷹氏が、1950年ごろ、ヨーロッパの「モンブラン」を日本人向けにアレンジしたといわれる。上質な栗を2度裏ごしし、さらに荒い目に通して空気を含ませ、手の熱が伝わらないよう素早く生クリームで覆うことで、ふんわりした食感を保っているという。純白のドレスをまとったかのような美しさは、手を付けるのがためらわれるほど。ふんわり軽やかな食感、甘さ控えめで、コース料理のデザートとして食しても重たくない。
Chantillyとはフランス語でホイップクリームの意。ちなみにパレスホテル東京にも、そっくりなスイーツ「マロンシャンティイ」が存在するが、同ホテル創業時の1961年に、東京會舘の調理長だった田中徳三郎氏を総料理長として迎えたため、数々のレシピが受け継がれたのだとか。
実は激動の歴史を経て来た同舘、大正11(1922)年開業の翌年、関東大震災に見舞われ、営業再開に4年を要した。昭和15(1940)年には大政翼賛会に徴用され「大東亜会館」と改称させられた。さらに戦後GHQに接収され、将校クラブとして営業。再び「東京會舘」として復活できたのは、昭和27(1952)年であった。
2019年に丸の内二重橋ビル内に3代目となる本舘がリニューアルオープンし、2022年には創業百周年を迎えた。さまざまな困難を乗り越え、長年にわたり多くの人々から愛され続けている同舘伝統のメニューは、いずれもレストランでなければ味わえない、技術と時間を要する料理ばかり。だから何年たっても忘れ得ぬ味としてたくさんのゲストの脳に刻まれているのだろう。あぁ、また食べたくなっちゃった♪
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
(観光経済新聞2025年1月27日号連載コラム)