授業への学生の感想や質問、意見などを提出するリアクション・ペーパー、通称リアペでよく見かけるようになったのが「共感した」「納得した」という表現である。教師が話した内容と学生自身の経験や知識、価値観と合致したというニュアンスで、実際に肯定的な評価になっている。その一方で、「理解できた」や「気付いた」はぐっと少ない。
このうち「共感」を巡っては、消費者から商品やサービス、企業への共感に注目するのが「共感マーケティング」で、実際に大手コーヒーチェーンや大手IT企業、生活雑貨ブランドの中には、技術や理屈、スペックよりもストーリーや世界観、姿勢への支持がビジネスの基盤になっているケースがある。
もう一つ大学でよく見かけるようになったのが「韓国語」を学習する学生である。音楽やドラマ、ファッションなど韓国文化への興味関心だけではなく、どうやら「達成感」が鍵を握っているようだ。文法などで日本語との共通点が多いことで学習しやすく、ハングル(文字)が読めた、歌詞やセリフが聞き取れた、検定・資格試験に受かった、と英語よりも比較的早く手応えを得られるという。
こうした「達成感」について、出版業界では、読書における「達成感」ともいえる「読破感」が注目されていて、本の構成や内容、文体などに加えて、厚くて軽い紙を使い、余白を多めにしてページ当たりの文字数を減らすことで、分厚くても一気に読み切ることができる工夫がなされている。
必ずしも教育=ビジネスではないものの、現代における若い人材の育成において、彼・彼女たちの日常や当たり前を意識し、取り組みやすい手頃なゴールを設定するなど、いくつかマーケティングの知見や実践が応用できそうである。その一方で、「共感」「納得」が少ない未知なることへの対応力、すぐに「達成感」が得られない大きな目標への挑戦に必要なレジリエンスをどう育むか、マーケティングはまだ教えてくれていない。
(愛知淑徳大学交流文化学部教授 野口洋平)