井出泰済社長
「パン」に自信、誘客の武器に 「総合リゾート」見据え試行
パン・ダニエルの外観
店内に並ぶパン。味だけでなく見た目でも顧客を楽しませてくれる
昨年7月、山梨県の河口湖畔に本格的なフランスパンをはじめとする多種多様なパンのほか、色とりどりの洋菓子やフランス料理の総菜を扱うベーカリーショップ「Ｌｅ ｐａｉｎ ｄｅ Ｄａｎｉｅｌ（パン・ダニエル）」（山梨県富士河口湖町）が開業した。雑誌の「おいしいパン特集」で取り上げられそうな高いクオリティの商品と館内の設えを誇る同店舗は、富士レークホテル（同）の館内レストランで提供していたフランスパンを端緒に独立店舗として開業したものだ。同館の井出泰済社長にパン・ダニエル開業までの経緯や、同館周辺エリアの観光力増強にかける思いを聞いた。
世界水準のバリアフリー対応を館内に施し、「やまなし産後レスパイトケア推進モデル事業」モデル施設として産後の母親を対象にモニター宿泊を実施するなど、宿泊業界で常に先進的な取り組みを実施する富士レークホテル。同館に本格フランス料理レストラン「ＰＲＥＭＩＥＲ（プルミエ）」が開業したのは2018年8月。東京銀座の「マキシムドパリ」や椿山荘の「カメリア」で総料理長を歴任したダニエル・パケ氏をシェフに招聘（しょうへい）し、宿泊者だけでなく食事のみの利用者へもランチやディナーを提供し、多くの新規顧客を獲得してきた。そんな中、パケ氏から井出社長に「フランス料理に合うパンを焼き上げる環境を整えてほしい」との要望が上がった。井出社長は「最初聞いた時は正直ピンと来なかったが、和食にとってご飯が大事なのと同様に、フランス料理にとっておいしいパンは大事だ」との結論に至り、フランス製のオーブンを導入した。「最初はいつ元が取れるか心配だった（笑い）」（井出社長）との不安があったが、パケ氏や担当スタッフが焼くフランスパンは人気を集め、同館の目玉の一つになった。
次第に「テークアウトして持ち帰りたい」との声が大きくなり、持ち帰り用商品としての販売を開始。これも好調で、井出社長は「もっと大きく展開できるかも」と考え、パンに特化した独立店舗の開業を思案し、同計画を進めた。同店の運営において、「女性を中心に多くの方がスタッフとして集まってくれた。旅館・ホテル業は人手不足で慢性的に苦労している一方で、人手が見込めるのは重要なポイントだと思った」との考えも、開業をより大きく後押しした。
準備が整いつつあった2020年初頭、新型コロナウイルス感染が広がり、パン・ダニエルの開業は一時延期に。井出社長は「あとちょっとのところでコロナが来てしまい…。どうしようかと悩んでいたが、その翌年の秋に事業再構築補助金の採択を受けたことで状況が好転し、開業に向け再始動した」と述懐する。
無事に開業を迎えたパン・ダニエルだが、井出社長は「開業当初は『たかがパンなのに何でこんなに高いんだ』とのご指摘も多数あった」との苦労を明かす。現況については「まだ試行錯誤だが、開業から数カ月たち、損益分岐点等も含め収益と材料費、価格設定などのバランスがようやく見えてきた」と話す。また、「パン・ダニエルを富士レークホテル本体の運営と切り離し、独立して運営させている点も重要。私は全体的に統括するものの、パン・ダニエルの売り上げは同店のスタッフに委ねる部分も大きい。自分たちで責任を持って運営してもらうことで、数字に対しての意識も高まる」と期待している。
観光客のほか別荘族、地元住民を主たるステークホルダーとして「河口湖畔を総合リゾートエリアへ」との構想を持つ井出社長。現在は高齢者の富士レークホテルでの雇用を促進する別法人で事業再構築補助金の採択を受け、古民家を1棟貸しの外国人向け宿泊施設へと改装している。1泊30万円（上限6人）で、富士レークホテルからの食事のデリバリーも可能となる予定。井出社長ともつながりが深い井出醸造店が隣接する。「外国人のラグジュアリー層に『和』を感じてもらえる空間にしたい。昔ながらの日本家屋で日本酒を片手にくつろいでもらえたらうれしい」と期待する。
昨夏には通訳案内士会、エコツアー事業者らとのタイアップでオンラインによるバーチャルツアーを実施するなど、性別や年齢、国籍の違いや障がいの有無を問わず全対象を広く受け入れる富士レークホテル。「人に優しい」経営を実践する井出社長の視線は、常に河口湖畔と世界に向いている。
インバウンド迎え入れに向け古民家を改装中。井出社長は「日本の良さを知ってもらえたら」と意気込む
