【学術×現場43】カスハラではなく、もはやパワハラ案件 福島規子


 従業員を悪質な顧客から守る「カスタマーハラスメント対策」の義務化が令和8年10月1日から始まった。改正労働施策総合推進法ではカスタマーハラスメントを以下のように定義づけている。

 カスタマーハラスメントとは、職場において行われる(1)顧客等の言動であって、(2)その雇用者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超え、(3)労働者の就業環境を害する場合を言う。なお、電話やSNS等のインターネット上において行われるものも含む。

 平たくいえば、カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、「お客さまの行き過ぎた言動によって、従業員が安心して働けなくなるような状態のこと」を指す。そこで、従業員がこのような状況に陥らないよう体制を整えることが、事業主に義務付けられたのである。

 さて、早速、現場で「専門クラス」のスタッフを対象にカスハラ研修を行った。ちなみに、同店ではサービススタッフを接客経験や技術、気づきのレベルなどによって3段階に分けて研修を行っている。所作や言葉遣い、基本的な料理提供の習得を目指す「基礎クラス」、複数卓を担当しながら状況判断と段取り力を鍛える「実践クラス」、接待席や難しい顧客の対応に加え、スタッフ育成にも携わる「専門クラス」である。

 顧客からの指名も多い優秀な専門クラスのスタッフが集まり、「改善要求がクレーム、攻撃行為がカスハラ」という視点から現場の事例集をもとに理解を深めていった。

 例えば、料理提供が数分遅れた際に不機嫌そうに言われた「料理、遅くないですか」はクレーム、「遅いんだよッ! 店長呼べ! お前じゃ話にならない!」と怒鳴り続けられたらカスハラである。怒鳴りつけは脅迫、お前じゃ話にならないは人格否定を伴う侮辱であり明白なカスハラ行為にあたる。

 現場のリーダーは、カスハラを受けたスタッフを速やかに交代させ、会社が定めた方法によって事態収束を図らなければならない。たとえ交代要員が手配できないとしても、半泣きになっているスタッフに「大丈夫? 最後までできる? できるよね?」と声を掛けて説得し、半ば強制的に現場に戻すことはカスハラ対策義務の違反になる。

 ところで、事例集を熟読していたAさんが、「閉店時間をかなり過ぎているのに、退店しないお客さまは、カスハラになるんですね」とつぶやいた。「社会通念上許容される範囲を超えるもの」の中には、拘束的な言動として「不退去、居座り、監禁」が挙げられている。

 Aさんによると、その顧客は21時ラストオーダーで声掛けをし、21時30分閉店を伝えたにも関わらず、23時過ぎまで居座ったという。Aさんらが閉店業務を終えて店を出たのは午前0時過ぎ。翌日の出勤にも響いたらしい。23時過ぎまで居座るのは明らかに社会通念上許容される範囲を超えている。はっきりと退店を促すべきだったのではと言うと、Aさんは言いにくそうに「あの~、でも、それって社長の席だったんです」と一言。絶句。もはやカスハラではなく、パワハラ案件である。

 福島 規子(ふくしま・のりこ)九州国際大学教授・博士(観光学)、オフィスヴァルト・サービスコンサルタント。接客サービスの現場で起こる事象をサービスコンサルタントの立場とホスピタリティ研究の専門家の知見からひも解いていきます。

 
 

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