鳥海氏(左)と高田社長(右)
Trip.comは9月24~27日に東京ビッグサイトで開催された旅の祭典「ツーリズムEXPOジャパン2026」に出展した。25日同社ブースで行われたトークセッション「旅の未来、その先へ。」には、同社日本法人社長の高田智之氏と航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏が登壇。AIやテクノロジーの変化、旅行者の価値観の変化によって、旅がどのように変わっていくのかなどを両者が語った。
円安・物価高が変えた旅行者の行動――「推し旅」という新潮流
Trip.comは9月25日、東京ビッグサイトで開催中の「ツーリズムEXPOジャパン2026」の同社ブースで、トークセッション「旅の未来、その先へ。」を開催した。
登壇した鳥海氏はまず、円安・物価高・インフレを背景とした旅行者の行動変化について語った。「今まで以上に皆さんより堅実な選択をする。必要なものにはお金をかけるけど、そうじゃないものにはお金を使わない」と現状を分析。自身が提唱する「推し旅」という概念を紹介した。推し旅とは、自分が推しているものには惜しみなく投資しつつ、それ以外の支出は徹底的に絞るという旅のスタイルだ。
鳥海氏は、今年6月末から7月頭にかけてワールドカップのサッカー観戦のためアメリカへ渡航した際の経験を例に挙げた。「現地に来ている日本人サポーター、20代・30代の若い男女が、サッカーを見に行くという目的がある中で、あらゆる形で航空券をいかに安く買うかという行動をしていた。試合チケットは削れないが、航空券・ホテルは削れるものとして、メリハリをつけている」と指摘した。
インバウンドにも変化が生じている。鳥海氏によると、今年8月のインバウンド数は約9%減少した。背景には、日本を75%以上が2回目以上の来日というリピーターが占める中、「日本の夏が暑すぎる」として訪日を10月以降にシフトする動きがあるという。その結果、日本から東南アジアへ向かう航空券の価格が下落。「調べてちゃんと情報を使った人がうまくやっている」という状況が生まれていると述べた。

鳥海氏(左)と高田社長(右)
Trip.comデータが示す地方観光の伸び――鍵は「新幹線と高速バスの予約機能」
高田氏は、Trip.comの実データに基づいて今年のトレンドを紹介した。
旅行者が価格に敏感になっているという点はデータにも表れており、同社アプリのプライスアラート機能――設定した金額を下回ったタイミングで通知が届く機能――を活用するユーザーが顕著に増加しているという。
国内旅行・インバウンドの目的地でも変化が見られた。東京・大阪・京都・福岡といった定番エリアの人気は続く一方、今年上半期の伸び率では「第1位が富山県、第2位が福井県、第3位が石川県」と、北陸エリアが上位を独占した。
この結果について高田氏は二つの仮説を示した。一つは今年の夏の猛暑により、西日本より北の地域を選ぶ旅行者が増えたこと。もう一つは、Trip.comが今年2月から新幹線の予約販売を開始したことだ。「新幹線のチケットを取って行かれる方が如実に増えた。足がつながるとその先に行かれる方が多い」と高田氏は説明した。
鳥海氏はこれを受けて「プラットフォームが新幹線のチケットを売ることで、ホテルの予約も変わるし、行き先も変わる。ある意味、Trip.comが新幹線を扱ったことが地方観光を増やしたということになる」と評価した。
Trip.comはさらに高速バスの予約販売も開始。島根や高知といったエリアの伸びも確認されており、高田氏は「バスのチケットを販売すると、新幹線や鉄道だけではアクセスできないところにも人が分散していく。二次交通の重要性がより出てきた」と語った。
「全ての判断基準は航空券」――賢い旅を最大化するコツ
旅行コストを抑えながら旅行体験を最大化するコツについて、両氏の認識は一致した。
「全てにおいて、まず航空券の価格だと思っている」と鳥海氏は断言した。「ホテルはランクを落とすか郊外に移動するかで価格を下げる手段は多い。しかし航空券だけは、価格が折り合わないと旅行そのものをやめてしまうことになる」。
鳥海氏が推奨する旅の組み立て方は、まず航空券の価格とルートを確認し、それが見えてからホテルを調査して、合致した段階で予約するというフローだ。「OTAを活用すると、自分が想定していなかったルートのお得なものが出てくることもある」とも述べた。
高田氏は、同社のデータから興味深い傾向を明かした。今年上半期と昨年を比較したところ、ビジネスクラスとファーストクラスの予約数が「昨年比99%増」、すなわち約2倍に増加しているという。「直前に余ったビジネスクラスやファーストクラスが非常に安い価格で出ることがある。プライスアラートを上手に使って、欧米の長距離をビジネスクラスで10万円台で予約するような方が増えている」と高田氏は説明した。
プライスアラートはクラス別の設定も可能だ。「ビジネスクラスが20万円・30万円を下回ったら通知が出るように設定できる」と高田氏は紹介。さらにTrip.comアプリには、5桁の数字を入力することでファーストクラス・ビジネスクラスのみに絞って世界中の航空券を検索できる機能があることも明かした。
一方、鳥海氏は価格だけで選ぶことへの注意も促した。「早朝発・深夜発や乗り継ぎ時間も含めた全体の効率で選ぶべきだ。5,000円・1万円の差であれば、より効率よく動ける選択肢を選んだほうがいい。現地で疲れて動けなければ意味がない」と述べた。
今年のおすすめ渡航先――国内は北陸・沖縄・宮崎・鳥取、海外はハワイ・ベトナム・パラオ
鳥海氏が今年残りのおすすめ渡航先として挙げたのは、国内では沖縄・宮崎・島根・鳥取だ。沖縄については、11月23日の首里城復興イベントに加え、11月以降はリゾートホテルの価格が夏の半額程度になるケースもあるとして、のんびりした滞在を勧めた。鳥取については「美術館の展示がすごいらしく、来月行く予定」と語った。
海外では、航空券価格が下落しているハワイを推薦。「セールを上手に活用しながら選んでいくのもあり」と述べた。
高田氏がデータを基に紹介したのは、燃油サーチャージの高騰と円安を背景に、長距離より短距離が人気になっているという傾向だ。特にベトナムへの需要が高まっている。また、今年のシルバーウィーク期間に伸びた渡航先として、パラオとカザフスタンを挙げた。「物価が落ち着いていて、なおかつ日本では体験できない景色や食事があるところが人気を集めている」という。
AIボット経由の予約が前年比4倍超――「旅行のインフラ」へ
旅行プラットフォームとしてのTrip.comの進化について、高田氏はいくつかの具体的なデータと機能を紹介した。
まず、カスタマーサービスについて。同社は東京に100人以上のスタッフを配置し、24時間365日、日本語での電話対応を行っている。鳥海氏はこの点を「高田氏が社長になってから数年で大きく変わった。日本のマーケットに合わせたことをちゃんとやっている」と評価した。
次に、AIチャットボット「TripGenie」の普及だ。このボットを経由した予約数が昨年同時期比で4倍以上に増加している。「質問の約8割は旅行に直接関係ないことで、旅行に行く前のキャッチボールをした上で、山に行きたい・海に行きたいといった希望条件が引き出され、出てきた商品を予約するという流れが増えている」と高田氏は説明した。
他社で予約した航空券情報をTrip.comアプリに取り込める機能も紹介された。予約確認書のスクリーンショットをアップロードすると、フライト情報をアプリ上で一元管理できる仕組みだ。「マイルを使う方もいるし、他社で取った航空券情報も我々のアプリに呼び込める。旅行者に優しくありたい」と高田氏は述べた。
鳥海氏は自身の体験として、今年2月のミラノ冬季オリンピック観戦の際にTrip.comを活用したエピソードを紹介した。当初の目的地だったベネチアは天気が悪いと判断し、朝起きてからバルセロナへの当日予約をTrip.comで完結させた。「これが今のオンラインのすごいところだ。朝起きてから今日どこに行くか、どのホテルにするかを決めることができる」と語った。
また、鳥海氏は78歳の父親がトロントへ一人で野球観戦に行く際にも同サービスを活用したと明かした。「自分以上に安心・安全なホテルを選ばなければならない状況で、Trip.comでお得なものが見つかり、予定管理もアプリで全て確認できた」という。
二次交通の拡充についても言及があった。Trip.comでは日本国内の高速バスのほか、海外のバス・鉄道も取り扱いを広げており、高田氏はウィーン空港からスロバキアのブラチスラバへ向かうバス(約1,000円)が同アプリで予約できると紹介。鳥海氏は「昔の海外OTAは飛行機・ホテル・レンタカーがせいぜいだったが、今は送迎・SIMカード・海外の二次交通まで扱う第2段階に来ている。次はAIを組み込む第3段階になるだろう」と整理した。
「賢い旅」に「疲れない旅」を加えて
セッションの締めくくりに鳥海氏は、「賢い旅」に加えてもう一つのキーワードとして「疲れない旅」を提示した。「詰め込まずゆっくりする疲れないという意味と、予約・手配に疲れないという意味の両方だ。その日の気分で行き先を変えられる手配の柔軟性も含めて、Trip.comのアプリがその一部を担っている」と述べた。
高田氏は「旅行のインフラのような会社になりたい」と表明。「二次交通が非常に重要であり、鉄道・バスを含むトラベルのエコシステムをAIを使いながら構築していきたい」と今後の方針を語った。
【kankokeizai.com 編集長 江口英一】




