盛山氏
観光経済新聞、東京交通新聞、塗料報知、農村ニュース、ハウジング・トリビューンの専門5紙誌は、2026年度の連携企画として「関係人口増への取り組み」をお届けします。第2回は兵庫県。同県選出の盛山正仁衆院議員(元文部科学相、国土交通省出身)に、関係人口、交流人口の増加を通じた地域の活性化などについて話を聞きました。併せて、各紙誌の分野の動きをリポートします。
日本人の観光がベース 再訪したくなる体験づくりを
――地方創生の新たな担い手となる「関係人口」を兵庫県エリアで増やすに当たり、交通分野(鉄道、バス、タクシー、レンタカー、ライドシェア形態など)に期待することは何か。
盛山議員(以下省略) まず、本来は関係人口というよりも、そこに住む人、そこで仕事をする人、学校などに通う人を増やすことが一番。そのためには、さまざまな分野の産業を今まで以上にどう活性化していくかということになる。
交通分野では、県内を山陽新幹線が走っている。それ以外の鉄道は、大阪を中心とする電車区間を除けばローカルな区間となっていて、そこをどうテコ入れするかは頭の痛いところだ。JRに加えて阪急、阪神があり、神戸から西には山陽電鉄もある。信号や電気関係のトラブル、接触事故などがあった場合でも代替機能があり、振り替え輸送ができる。ただ、それが十分になされているかというと、違いがあるのも事実だ。通勤・通学の足として、もう少しうまく連携することも含めて手がないかと思う。バスは都市と地方部で違いがあるが、私の選挙区(衆院兵庫1区=神戸市東灘区・灘区・中央区)の神戸市中心部の住民からも「バスのサービスがなくなった。何とかならないか」と言われる。まして、西区や北区、それ以外の地方部では、より切実な問題になる。鉄道のローカル線も同じだ。

盛山氏
――人口減少が進む中、地域の交通をどう維持していくべきか。
国鉄は37兆1千億円という巨額の赤字を抱え、1987年にJRへ分割民営化された。その過程で、「赤字の鉄道は作らない、作らせない」という前提で鉄道事業法ができ、私は(旧運輸省で)国鉄改革とセットでこの事業法を担当した。
日本の運輸体系は、バスもタクシーも船も航空も、もうかるという前提で事業法ができている。つまり、「もうかる自信がある人は手を挙げていらっしゃい。事業計画を見て、中長期的な採算性もしっかりしていれば、昔は免許、今は許可をあげましょう」ということだ。
しかし、2008年に日本の人口はピークを打ち、減少局面に入った。経済も昔の高度経済成長とは全然違う状態だ。人が増え、経済が成長するという前提で作った法体系を、いつまで維持し続けるのかというのは私の大きな問題意識だ。
交通は、電気、ガス、水道、病院、保育所、学校と同じエッセンシャルサービス(社会生活に必要不可欠なサービス)だ。シビル・ミニマム(都市住民の最低限の生活環境基準)の発想で、税金を入れてでも維持していかないと、人が住めなくなる。それが関係人口になるかどうかは分からないが、その地域に住みたいと思う人を引きつけることになる。
また、子どもの医療費や高校の授業料の無償化などをめぐり、市町村間で競争しているが、ここには正直、疑問を感じる。制度として国で一本にまとめ、日本のどこに住んでもそんなに変わりませんよ、というのがあるべき姿だ。いずれにせよ、「兵庫は暮らしやすい」と言えるような交通サービスを形成していくことが大事ではないか。

盛山氏
――レンタカーやライドシェアの活用については。
レンタカーは便利だが、外国人向けに英語の案内表記があるレンタカーがもっと増えていくといい。道路交通法規は国によって若干違いがあるので、それをアシストするようなスマートフォンのアプリなどがあってもいいと思う。
ライドシェアについては、都市部でやるものは正直、あまりよろしくないと思っている。使いたい人の勝手だけで、そういうサービスを入れるという考えはおかしい。クリームスキミング(いいとこ取り)では、労働者、ドライバーを含めた持続可能なタクシーサービスにならない。
一方、地方部で市町村などが主体となるライドシェアは、採算が取れない状況なので致し方ない。これで需要にうまく供給ができればいい。「観光客のために、地方にもタクシーがないとだめだ」という人の趣旨は分かるが、地方ではそんなに需要がない。われわれだって海外で、首都以外のところに行けばレンタカーを使う。必要なら自治体が主導し、税金も入れていくということだと思う。
――旅館・ホテル、観光施設など県の観光関係事業者や行政、団体が、誘客拡大に向けてさらに取り組むべきことは何か。
観光で一番大事なのは、よく取り上げられるインバウンド(訪日外国人旅行者)ではなく、国内の日本人の観光だと思う。これがベースになる。その旅行先に「1回行ったからいいや」ではなく、「また行こう」と思わせるサービス、見る物、買う物、食べ物を提供できるかが大事になる。
例えば、レストランなら「あの店、うまかったね。また行こう」となるのに、観光の場合は「淡路島は1回行ったから、今度は別の場所に行こう」というのが一般的だ。「また淡路島に行きたい。前はこれを見たから、次はあれを体験したい」と思わせるようにしないといけない。
昔のように、団体で1泊し、大きな広間で宴会をやって、翌日はゴルフ、という旅行からは完全に変わっている。個人やグループ、家族を前提に、どのように受け入れ、満足して帰ってもらえるかを考えていかなければならない。
最近は、「泊食分離」が見られる。これでもかという量の料理を出して文句を言わせない、というのではなく、昨日はこれ、きょうは違う物、和洋中でもいいし、和食でもいろいろある。そういうサービスをどう提供できるかだと思う。
行政や国がやらなければいけないのは、有給休暇を取りやすい環境づくりだ。私自身もそうだったが、日本人はなかなか有給休暇をちゃんと取得できない。だから祝日を増やしてきた。
有休が取れればメリットが出てくる。観光需要のピークを平坦にできる。今は結局、みんなが休めるのが盆や正月だから、鉄道も航空もそこに合わせてサービスを提供しようとして、投資額も大きくなる。旅行者からしたら、ホテルや旅館も人混みの中へ行くような状態になり、サービスのレベルだって悪くなる。ピークを少し下げて平坦にできれば、交通機関も観光関係もサービスを提供しやすくなるし、旅行者の満足度も上がると思う。
インバウンドについても、今は円安の関係もあり、日本人以上にお金を落としてくれるので、これはこれで大事にしないといけない。どうすれば日本の良さをもっと理解してもらえるのか、皆さんに工夫してもらいたい。モノ消費からコト消費へ、何をするのかというところが大事になる。
――自身も長く観光政策に携わってきた。
私は観光立国推進基本法(2006年)を作ったメンバーの1人だ。エコツーリズム推進法(07年)や地域自然資産法(14年)も作った。国際観光旅客税の創設も手伝った。
観光はものすごく経済効果が高い。ただ、1冊目の観光立国推進基本法の解説を書いたころは、まだ観光にそんなに日が当たっていなかった。アウトバウンド(日本人の海外旅行者)が多く、インバウンドが少ない。「インバウンド年間1千万人」なんてとんでもない、という時代だった。
観光立国推進基本法を作ったときも、「観光立国」の「立国」まで入れるのか、ちょっと恥ずかしいな、と言いながら作った。観光庁を作るときも、役所にいた私より先輩の人に「こんなできもしないことを言うな」と怒られた。本当に悔しい思いをした。アウトバウンドよりもインバウンドがこんなに増えるとは、やっぱり夢にも思わなかった。変われば変わるものだ。
――関係人口増に向けた住宅・建築の領域での取り組みを聞きたい。例えば、空き家などのストック活用や文化財活用について。
観光とも絡みながら、古民家を生かして民泊、民宿にしている例がある。
それと重要なのは、やはり木造化だ。塗料とも関係してくるが、脱炭素や地球温暖化対策も含めて取り組むべきだと思っている。「森林を活かす都市の木造化推進議員連盟」でも、都市の木造化に取り組んでいる。
実際、木を生かした建物に入ると気持ちがいい。神戸市に兵庫県林業会館というビルがあり、完全な木造ではなく、骨格自体は鉄骨だが、天井や壁、床に木を使っている。そこで働いている人に聞いても、皆さん、「快適だ」と言う。
木の香りが、精神的にも健康的にも良い影響を与えるのではないかと思う。地球温暖化対策にも寄与する。住宅の木造化をもっとうまく支援すべきだと思うし、国産材の活用にもつながる。国だけでなく、県、市も一緒にやっていけたらいい。
盛山 正仁氏(もりやま・まさひと)衆議院議員、兵庫1区、当選6回。大阪市生まれ、72歳。東京大学法学部卒。1977年旧運輸省に入り、2005年、国土交通省総合政策局情報管理部長を最後に退官、同年、衆院議員に初当選した。法務副大臣、衆院厚生労働委員長、文部科学相などを歴任。




