鳥取県は8月28日、TBS系日曜劇場「VIVANT」で阿部寛さんが演じる公安・野崎守を思わせる広報課職員を起用した県職員採用試験の告知をX(旧Twitter)に投稿し、9月8日時点で約180万回の表示、約2.5万件の「いいね」を記録した。
投稿にはドラマを想起させるコピー「俺にふさわしい仕事をよこせ!」「俺をトトリーの幹部にしろ!」が添えられ、テレビ・新聞・WEBニュースなど多数のメディアが「県庁の野崎さん」として全国に報じた。ただし投稿の中身は、至って真剣な「県職員募集」の情報だ。
さらに9月7日には、湯梨浜町で開催された全国初の「温泉文化・世界サミット」に同じ職員を浴衣姿で起用。漫画「テルマエ・ロマエ」原作者・ヤマザキマリさんとの対面が共同通信をはじめ各メディアで報じられ、温泉文化のユネスコ無形文化遺産登録を目指す取り組みが広く発信された。

「バズること」が目的ではない
鳥取県がこうした取り組みで重視しているのは、SNSで生まれた話題を別の県政施策へつなげる「連鎖」だ。
「VIVANT が面白い」という関心を入口に、「鳥取砂丘を知った」へ。「野崎さんに似ている」という話題を入口に、「鳥取県が職員を募集していることを知った」へ。「テルマエ・ロマエっぽい」という関心を入口に、「鳥取県で温泉文化・世界サミットが開かれたことを知った」「温泉文化のユネスコ登録を目指していることを知った」へ。
県は「”面白い”から入って”知る”へつなげる。そして”知る”から鳥取県そのものへの関心へつなげる。これが情報発信で目指しているもの」としている。
180万回の表示という数字は大きな反響だが、鳥取県が目標に置くのは「バズること」そのものではなく、その先に何を届けられたか、だ。
「VIVANTごっこ」は3年前から

鳥取県が「VIVANT」を活用した情報発信を始めたのは、第1シーズン放送時にさかのぼる。鳥取砂丘の風景が劇中の架空の国「バルカ共和国」を思わせることをきっかけに、平井伸治知事をはじめ県職員らも参加する「VIVANTごっこ」として展開してきた。
第2シーズンでは鳥取県内で実際にロケも行われた。撮影が行われた日南町は8月27日、期間限定の愛称「NICHI VIVANT CHO」を発表。県・町・市町村・地域関係者と行政組織の枠を越えた情報発信へと発展した。
今回の「VIVANT」をめぐる情報発信は、一つの担当課だけで完結していない。鳥取砂丘では観光、日南町ではロケ地を生かした地域振興、県広報公式Xでは県職員採用——それぞれ発信したい情報も担当する部署も異なるが、「鳥取県、またVIVANTをやっている」「この人、この前も見た」「今度は何をするんだろう」という連続した関心を生むことで、別の県政情報を見てもらうきっかけをつくっている。
登場した職員は日吉津村からの人事交流

今回SNSに登場したのは広報課に勤務する松田健係長(41歳)。実際には日吉津村の職員で、人事交流で現在は鳥取県庁広報課で勤務している。
約20年前から「阿部寛さんに似ている」と言われてきたといい、「VIVANT」関連企画では野崎守を思わせる職員として参加するようになった。出演依頼があると1週間ヒゲを伸ばすなど、本人も楽しみながら県の情報発信に協力している。
県は「今回の取り組みの主役は”そっくりな職員”そのものではない」としている。県庁や市町村の中にいる職員の個性や専門性を発掘し、それを県政情報と結びつけることが狙いであり、松田のケースはその一例と位置づける。
全国初「温泉文化・世界サミット」への展開

9月7日、鳥取県湯梨浜町で全国初となる「温泉文化・世界サミット」が開催された。
サミットは「温泉文化」の2030年ユネスコ無形文化遺産登録を目指し、日本の温泉文化——「自然の恵みである温泉に浸かり、心と体を癒す」という日本人に根付いた社会的慣習——を国内外へ発信するもの。会場には全国の自治体や温泉関係者、地域住民ら約450人が参加した。
「テルマエ・ロマエ」原作者のヤマザキマリさんが「温泉文化アンバサダー」に就任し、映画「テルマエ・ロマエ」で阿部寛さんが演じた主人公・ルシウスを思わせる浴衣姿の松田係長と対面。ヤマザキさん本人からは「雰囲気もそっくりで驚いた」とのコメントがあった。
この様子は共同通信をはじめテレビ・新聞・WEBメディアなどで報道された。結果として「温泉文化・世界サミット」「温泉文化のユネスコ無形文化遺産登録」という、本来であれば硬く受け取られがちな政策テーマにも、新たなニュースの入口が生まれた。

X投稿の反響と発信の経緯
9月9日時点における鳥取県X公式アカウントの再生数ランキング上位は以下の通りだ。
- ①鳥取砂丘でVIVANTごっこ中(7月22日):289万PV、いいね6,265件
- ②土曜早朝 砂丘除草(9月6日):199万PV、いいね1.73万件
- ③鳥取県職員募集告知(8月28日):181万PV、いいね2.52万件
8月28日に県職員採用の投稿を発信後、9月上旬にかけて新聞・テレビ・WEBメディアが相次いで報道。投稿のリポストは3,950件、ブックマークは1,779件、返信は155件に達した。
9月4日には県広報公式Xで9月7日の「温泉文化・世界サミット」を告知し、「VIVANT」で生まれた認知を次の県政情報へ展開。9月6日・7日には鳥取砂丘の除草についても発信した。
写真・文章はすべて職員の手作り
鳥取県では、SNS等の広報に使用する写真や文章を全て職員が手作りしている。「予算をかけない効果的な情報発信」が小さな県ならではの取り組みだ。
県は「県が何を伝えたいか」だけでなく、「生活者が何を入口にすれば、その情報を見てくれるのか」という視点を重視している。特にSNSでは行政情報も、ニュース・エンターテインメント・企業広告・著名人の投稿など、あらゆる情報と同じタイムライン上に並ぶ。そこで、ドラマや映画など世の中で注目を集めているコンテンツの話題を「入口」として活用してきた。
著名人やタレントだけでなく、県庁や市町村で働く職員自身も、県政を伝える大切な「人材」であると県は位置づける。県内19市町村にも、それぞれの地域を知り尽くした職員や関係者がいる。地域の中にすでにある「人」「出来事」「話題」を見つけ、世の中の関心と掛け合わせることで、広告とは異なる情報の広がりをつくる——それが鳥取県が描く広報の姿だ。
県は今後も各担当課・市町村・地域関係者と連携しながら、「発信する広報」から「届く広報」へ向けた戦略的な情報発信に取り組むとしている。






