【VOICE】本物の忍者を、観光の芯に 株式会社Ninjack 代表取締役 福島 嵩仁氏


福島氏

福島氏

演出の素材でなく、
土地の歴史として扱う

 「忍者は本当にいたのですか?」。滋賀県甲賀市に観光に来られたお客さまから、頻繁に受ける質問です。私は忍者の里・甲賀で忍者を専門とする会社を営むかたわら、市の歴史文化財課で古文書の調査に携わり、国際忍者学会の運営委員も務めています。ですからこの問いには、迷わず「いました」とお答えしています。彼らが確かに生きていた証しが、甲賀に残る史跡や史料に山ほどあるからです。

 忍者は、世界でもっとも名の知られた日本文化の一つです。ところが観光の現場では、しばしば架空のキャラクターとして扱われます。手裏剣を投げ、装束を着て写真を撮って、ショーを見て終わり。それ自体は大変素晴らしいことであり、入り口としてこれほど強い引力を持つものはないでしょう。しかし、忍者の奥深さはそれだけではありません。入り口だけで終わってしまうのは、あまりにもったいないと思っています。

 本物の忍者は、忍術書や古文書の中に確かにいます。甲賀に伝わる「万川集海」には、忍者の心構えから潜入の技術、忍器の作り方まで事細かに記されています。彼らは飛んだり消えたりする超人ではなく、情報を集め、人と交わり、火薬や薬に通じ、時には主家を渡り歩いてでも生き延びた実務家でした。普段は在地の武士として村を守り、いざという時に忍びとしても働きました。この話をすると、お客さまの顔つきが変わります。忍者が本当にいたのだと目を輝かせて話を聞いてくれます。

 さらにその面白さは、体を使うと一段と深まります。忍者が建てた山城の跡を歩いて地形を読み、火術の道具を手作りして火を放ち、古来の忍術書のレシピ通りの携帯薬を作って食べてみる。体で感じてみて初めて、なぜ彼らがそうしたのかが腑(ふ)に落ちます。腑に落ちた体験は長く記憶に残り、別の忍術を体験したいと、リピーターになる方も増えてきました。

 甲賀や伊賀だけではなく、日本各地にまだ語られていない忍びの記録が眠っています。地元の研究者や資料館に尋ねれば、何らかのリアルな忍者の物語が出てくるかもしれません。ぜひ忍者を演出の素材としてではなく、その土地の歴史として扱ってみてはいかがでしょうか。宿の一室に、旅程の一行に、行政の施策に、その芯を一本通してみる。芯のある土地は、必ず選ばれます。

 忍者は忍ぶのが本分ですが、地域の資源としては、いつまでも隠れていてよいはずがありません。本物を掘り起こし、影の存在に堂々と光を当てる。忍者は、この国が世界に誇れる数少ない財産なのです。

福島氏
福島氏

 
 

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