教育、旅行関係者らが集った今年の「全国修学旅行研究大会」
全国修学旅行研究協会(全修協)は7月24日、東京のアルカディア市ヶ谷で「第43回全国修学旅行研究大会」(観光経済新聞社など後援)を開いた。「学びの集大成を図る修学旅行―修学旅行の灯は消さない」をテーマに、教員ら教育関係者、修学旅行に関わる事業者らに向けて修学旅行の意義を語る講演、東京都中野区における修学旅行の実践事例発表を行った。講演は東北福祉大学教育学部教育学科教授で文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官の長田徹氏、実践事例発表は中野区立中野中学校校長の竹之内勝氏、中野区立南中野中学校校長の神藤陽平氏が行った。
意思決定・合意形成のトレーニングの場
子どもが主体的に関わる修学旅行を
長田氏は「中学生時代で一番楽しかった思い出は何か」と参加者に問いかけた。
「体育祭」「文化祭」「修学旅行」。
会場から挙がる答えは、ほぼこの三つに集中した。長田氏はここで重要な指摘をする。「国語、算数、理科、社会を挙げた方はいませんでしたよね。これ、大学生にやっても同じです。ほとんどの人が特別活動を学校の一番の思い出として挙げます。それほど子どもたちの心の中に深く刻まれるのが特別活動なのです」。

講演する長田氏
長田氏は、現在進められている学習指導要領の改訂作業について解説した。
中央教育審議会の特別活動ワーキンググループの取りまとめによれば、次期学習指導要領の方向性として、次の二つのキーワードが掲げられている。
「自らの人生を舵(かじ)取りする力を子どもたちに付けさせること」
「民主的で持続可能な社会の創り手を育成すること」
さらに学校行事については、「子どもたちが学校行事の意義を理解し、主体的に関わり、協働してより良い学校行事を創造することが重要」と明記している。
「子どもたちが修学旅行を作れるかなって、今、皆さん思っていると思うんですが、作らせてみてもらえませんか。これが次の学習指導要領の大きな方向性です」。長田氏はそう会場に問いかけた。
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長田氏はここで、複数の国際調査データを示した。
OECD(経済協力開発機構)が進めるPISAと呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査によると、15歳対象の学力調査で、
数学的リテラシー=世界1位
読解力=アイルランドと並んで世界1位
科学的リテラシー=世界1位
日本の子どもたちは学力において世界最高水準にある。ところが同じPISAで行われた意識調査では、「自分の人生に明確な意義がある」「自分の人生に満足のいく意義を見つけた」といった問いへの肯定的な回答が、79カ国・地域の中で最下位水準に位置していたのだ。
また、国際教育到達度評価学会が進めるTIMSSと呼ばれる算数・数学、理科の到達度に関する児童・生徒の調査では、日本は、
数学=世界4位
理科=世界3位
ただ、これだけの成績を誇る一方で、「数学を使うことが含まれる職業に就きたいか」「理科を使うことが含まれる職業に就きたいか」という問いへの肯定的な回答は、国際平均の半分にも満たない水準が続いている。
さらに長田氏は、OECDのニート(学校にも通わず、仕事もせず、就労準備もしていない若者)に関する調査を紹介した。世界中のニートの中で、読解力が最も高かった国は日本。学歴が最も高かった国も日本だったという。
「勉強はできるのに、学びが職業や将来につながっていかない。この構造的な問題が、日本の子どもたちの現状として見えてきます」
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長田氏が示したデータの中で、会場に静かな衝撃を走らせたのが、児童・生徒の自殺者数の推移だった。
令和元年=399人
令和2年=499人
令和3年=473人
令和4年=514人
令和5年=513人
令和6年=529人
令和7年=536人(速報値)
「子どもの数は急激に減っているにもかかわらず、自ら命を絶つ子どもたちの数がこれだけ増えています。わが国の教育関係者として、無視することはできません」
警察と厚生労働省の分析によれば、子どもたちが命を絶つ主な原因の上位には、学業に関わる問題が含まれている。
さらにUNICEF(国際連合児童基金)の分析では、「精神的幸福度」が高い子どもの割合は、日本はコロナ前の調査で38カ国中37位。コロナ後の調査でも32位と、ほとんど改善が見られなかった。
長田氏はこう分析する。「自分で決めるのが怖い、誰かが敷いたレールの上を歩いた方がましだ、と思っている日本の若者の姿が見え隠れしています」。
さらに、急激な人口減少やAIの出現による職業消滅といった情報を、中高生はスマートフォンで日常的に目にしている。「自分の将来の仕事がなくなる。この閉塞(へいそく)感が、子どもたちを追い詰めているのです」。
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次期学習指導要領では、学校行事における意思決定と合意形成のトレーニングの必要性が明確に示される方向という。
「失敗しても、先生も、旅行会社の方も、温かく見守ってくれる。教育の中では許される失敗がある。修学旅行でなければできないことがあるのです」「ぜひ生徒たちに決めさせてあげてください。余地を残した状態で、大人がさまざ
まな準備をしていただけないでしょうか」(長田氏)。
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長田氏の講演を通じて浮かび上がった修学旅行の意義は、大きく3点にまとめられる。
「校内の学習活動を発展・充実させる場であること」
「人間関係・信頼関係を構築する場であること」
「意思決定・合意形成のトレーニングの場であること」
「次の学習指導要領では、修学旅行の意義が改めてきちんと位置づけられます。しかしその意義に反し、『楽しく遊ばせておけばいい』、あるいは『生徒の声を生かして修学旅行を作るなんて無理』という声が公然と語られるようなことがあれば、行事そのものの見直しを求める声が上がっても不思議ではありません」。
長田氏はそう警鐘を鳴らしながら、「引き続き、子どもたちの修学旅行のためにお力をお貸しいただければと思います」と、修学旅行に携わる大人たちへのエールで講演を締めくくった。
東京都中野区の実践事例発表
行き先を生徒が決定、令和10年度から実施
中野区は「子どもが表明した意見や考え、思いを尊重し、安心して自分の意見を表明できる学校づくりを推進すること」「子どもが自己決定する過程を通し、主体性と自律性、思考力・判断力・表現力の育成を図ること」を目的に、「子どもを主体とした学校教育」を令和6年度から実施している。
施策の柱は二つ。一つは、子どもの意見を反映させた教育活動。区が区立の小学校に20万円、中学校に30万円を配当。その使途を子どもたち自身に企画・提案させる仕組みだ。各校がアンケートや代表生徒による話し合いを通じて使途を決定。地域住民を招待するイベント、著名人を招いての講演会の開催、備品購入などが行われている。
もう一つの柱が、「こどもが考える校外学習」。中学校全学年の日帰り校外学習と、3年生の修学旅行の行き先を生徒たち自身に決めさせるのだ。
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生徒が考える修学旅行は、令和10年度実施の修学旅行から本格実施される。現在の中学1年生が3年生になった時に行く修学旅行の行き先を、今年度のうちに選定するもの。混雑の少なさや自然環境、文化的価値の高い場所を考慮して、教育長、中学校長らで組織する中野区修学旅行検討委員会が候補地を5カ所選定。この中から各校が一つを選ぶ。
候補地となったのは、従来の「奈良・京都」に加え、「青森・函館」「北陸(金沢+周辺)」「広島・京都」「九州(長崎+周辺)」の各地。
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神藤氏が校長を務める南中野中学校では、まず体育館に1学年全員を集め、担当教員が全候補地を説明するプレゼンテーションを実施。校長が「自分たちで修学旅行の行き先を決めるのは、とてもうれしいことだと思います」「大切なのは、意見を言うだけでなく、人の意見を大切にすることです」と生徒に向けて説いた。
生徒は教員の説明や共有資料をもとに独自に調査を進め、自分が推す候補地をアピールするスライドを作成した。限られた時間の中でも、興味を持った場所の情報を深掘りしたり、みんなでしてみたいことを訴えたり、レーダーチャートで五つの候補地を比較したりと、多様な工夫を行った。
生徒が6人の班をつくり、それぞれがスライド資料を使用し、自分の行きたい候補地についてプレゼンテーション。生徒による投票で、まず上位3カ所が決定し、その後、決選投票。最終的に行き先が「奈良・京都」に決定した。
投票理由は、「歴史資源の多さ」「班別行動の時間の長さ」など。このほか長崎+周辺は「飛行機に乗りたい」、函館・青森は「自然への憧れ」や「映画の舞台への関心」などが理由に挙がっている。
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一連の取り組みについて、成果として挙がったのは「生徒が当事者意識・高い意欲をもって、コース選定に取り組んでいた」「多面的に考察する視点に気付くことができた」「自分の意見を素直に発表することができた」「対話を通じて、互いの考えを尊重する心が育った」。
一方、課題として「学校経営方針、教員・生徒の実態など、学校の状況に応じた行き先を決定することができない」「中学1年の4月という学校で最も多忙な時期であるため、時間をかけて、丁寧に進めることができない」「入学間もない1年生であるため、修学旅行のイメージや見通しを持つことができていない。また、判断力も未熟である」などが挙がっている。
次年度に向けては、生徒のニーズに合った候補地の研究、中野区9校での情報共有、小学校段階からの見通しづくり、小・中連携、さらに3年間を見通したカリキュラムの再構築が必要とされている。

事例発表する竹之内(左)、神藤両氏




