大好物の一つ、牛タンシチュー。この連載でも2年前に一度取り上げている。その後も、美味なタンシチューを求めて食べ歩いて来たが、近年は原材料費の高騰もあり、価格は軒並み上昇。牛タンは一頭から一本しか取れず、皮付きだと歩留まりも約六割という希少部位だけに、高価なのも仕方ない。以前は比較的手頃だった店も値上げとなった。牛タンシチュー難民になっちゃうかも?
そんな中、ついに理想の一皿に巡り合った。見た目、味、価格の三拍子がそろい、店は会社から徒歩圏内。完全に「灯台下暗し」だった。江東区森下の老舗洋食店「キッチンぶるどっく」だ。
昭和47(1972)年創業の同店は、5軒の店が並ぶ長屋の1軒としてスタート。創業者である先代の味が人気を博し、客数が増えたため、隣の店舗を買い取り、壁をぶち抜いて営業していたそう。だが、建物の老朽化で店も劣化。2010年、某テレビ番組の「きたなシュラン」というコーナーで「汚い店構えにも関わらず、素晴らしい料理を提供してくれる店」として三ツ星を獲得。味は確かなのだ。
2020年、長屋が大きなマンションに建て替わり、同店もその1階にリニューアルオープン。新店舗は、カウンター8席、2名と4名のテーブルが1卓ずつというコンパクトな造り。スタイリッシュなファサードだが、中に入るとテレビがついていて「町の洋食屋さん」という温かい雰囲気。店の看板は、先代のころから長年継ぎ足しながら使っている、秘伝のデミグラスソース。1番人気という煮込みハンバーグをはじめ、ビーフシチューやタンシチューはモチロン、コロッケなど揚げ物系にもこのソースを掛けている。
実は、前述のテレビで話題になった後、先代が急逝され、しばらくは奥様お一人で切り盛りされていたとか。その後現シェフであるご次男が跡を継ぐことに。コク深いデミグラスソースの味が受け継がれたのだ。
さて、そのタンシチュー、お箸で切れるほど軟らかく、口に入れた途端溶けてしまいそう。ソースの旨味と相まって、超ベリウマ♪ 価格はなんと税込1650円! まさに救世主だ。
そして特筆すべきは、2番人気の「牛タンカツ」。コレまた超美味♪ サクっとした衣の中から、トロットロの牛タンが出て来るのだから、たまらない。サービスご担当の母上さまに、そのヒミツを伺ってみた。まずは牛タンを、皮ごと弱火で5時間もブイヨンで茹でるという。冷めると剥き難くなるので、温かいうちに皮を剥き、切り分けて冷ましてから冷凍する。それを自然解凍し、パン粉をつけて揚げるそうだ。あのデミグラスソースをかけて提供される。
自然解凍するところまで、タンシチューも工程は同じだそう。そしてバターやデミグラスソースでシチューに仕上げて行くという。調理はシェフお一人なのに、何と言う手間の掛かりよう! だからこそ、客足が途絶えない人気店であり続けられるのだろう。
また早く行きたいな♪
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。




