芥川賞作家・鳥山まこと氏書き下ろし小説×老舗旅館、”小説の世界に泊まる”新サービスが2026年10月始動——稲取銀水荘×『空想旅文庫』


 稲取銀水荘(静岡県賀茂郡東伊豆町)は8月6日、芥川賞受賞作家・鳥山まこと氏による書き下ろし小説と宿泊体験を組み合わせた新サービスを、2026年10月より提供開始すると発表した。

 株式会社micro development(静岡県賀茂郡東伊豆町、代表取締役社長:守屋真一)が手がける『空想旅文庫』との連携による取り組みで、コンセプトは「小説の世界に泊まる」。鳥山氏が稲取銀水荘に実際に滞在し、その体験をもとに書き下ろしたオリジナル短編小説を、宿泊客へのアメニティとして提供する。小説の舞台と現実の宿泊体験の境界線をにじませた、新たな旅のスタイルの提供が狙いだ。

芥川賞作家の「リアルな滞在」が物語の起点

 今回の取り組みの核となるのは、鳥山まこと氏自身のリアルな滞在体験だ。

 鳥山氏が稲取銀水荘に実際に滞在し、この土地と旅館の時間を自らの目で見て、耳で聞き、肌で感じながら過ごす。その実体験をもとに、稲取銀水荘を舞台にしたオリジナル短編小説を書き下ろす。

 鳥山まこと氏は次のようにコメントしている。

 「あらゆる場所には誰かの物語が潜んでいます。その町に暮らす人、昨日たまたま訪れた人、百年前に住んでいた人。稲取銀水荘にも数えきれないほどの物語が潜み、それらは建物に宿る気配や働き手の方々の振る舞い、窓から映る風景に残っています。そのうちのたった一つを小説という言葉で浮かび上がらせ、これから訪れる誰かに手渡すことができればと。旅は私の物語でありながら、誰かの物語を辿るものでもある。町や建物から得られる重奏的な体験の、ほんの手助けになればと思います。」

 鳥山まこと氏は一級建築士として活動する傍ら創作を続け、2023年に三田文学新人賞を受賞。2025年には『時の家』で野間文芸新人賞を受賞し、2026年に第174回芥川賞を受賞した。同一作品での野間文芸新人賞と芥川賞のダブル受賞は史上初となる。

宿泊客の体験フロー——小説が旅の前後をつなぐ

 宿泊客の体験の流れは次の通りだ。

 まず、『空想旅文庫』の公式サイトで気になる小説を見つけ、稲取銀水荘を予約する。予約後、自宅に小説が届く。宿泊前にじっくりと読み、旅先への想像を膨らませる。

 現地に到着したら、本を片手にまちへ出る。小説で描かれたシーンと目の前の景色を重ね合わせながら、稲取というまちを巡る。鳥山氏が実際に見た景色や感じた空気を、宿泊客自身が追体験する形だ。

 小説は宿泊客だけの特別なアメニティとして手元に残る。旅から帰った後も読み返すことで、旅の記憶とともに物語の世界を再訪できる。

 稲取銀水荘を代表取締役社長・加藤晃太氏は次のように語る。

 「稲取銀水荘は、これまで『おもてなし』を大切に、多くのお客様をお迎えしてまいりました。その姿勢は、これからも変わることはありません。今回、鳥山まこと氏とご一緒させていただく中で、私たちが大切にしてきたものを、物語という新しいかたちでもお客様にお届けできるのではないかと感じています。この取り組みが、稲取銀水荘の新たな魅力として、これからお客様とともに育っていくことを楽しみにしています。」

老舗が挑む新たな価値創造

 2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大を経て、旅行者の時間の過ごし方に対する価値観が大きく変わった。慌ただしい日常から離れ、あらためて自分自身と向き合う時間や、大切な人と過ごす時間そのものを見つめ直す宿泊客が増えている。

 こうした背景の中、稲取銀水荘はこれからの宿泊にどのような価値が求められるのかを改めて考えた。同社は、「私たちが大切にしてきた思いや、この土地に流れてきた時を、言葉として残す、あるいは伝えるといった機会はこれまでありませんでした」と振り返る。

 そして、まちや宿に眠る記憶を丁寧にすくいあげ、物語として届ける『空想旅文庫』の取り組みが、稲取を「残す、伝える」新たなかたちになると判断した。

 同社は取り組みの意義についてこう述べる。「今回、芥川賞受賞作家である鳥山まこと氏をお迎えし、旅館や街への思いを物語というかたちで皆様にお届けするという取り組みを通じて、私たち自身もあらためて稲取という土地の奥行きに気づかされました。言葉にしてこなかった土地の記憶や思いを、消費される素材としてではなく、旅館自身の言葉として物語に残していく——この対話から生まれる物語を、これからお越しいただくお客様にもお届けしたいと考えています。そして、その物語から、お客様の物語がはじまり、広がっていくことを願っています。」

『空想旅文庫』とは——「読む」体験を「泊まる」体験へ拡張

 『空想旅文庫』は、株式会社micro developmentが手がけるサービスだ。宿や地域に眠る記憶・物語をもとに小説を制作し、宿泊体験と接続することで、「読む」という体験を「泊まる」という体験へと拡張する。

 これまでにADDress、OURoom、伊豆・大室山(flagship)など、複数の施設への導入実績がある。

 同サービスのフィロソフィーは「情報を追いかけるのではなく、想像を膨らませる旅を提案する」こと。ただ訪れるだけでは見過ごしてしまいがちなまちの表情や、そこに生きる人々との出会いを、小説という媒介を通じて可能にする。

 サービスの特徴は3点に集約される。第一に、地域文化や宿の個性をもとに執筆されたオリジナル小説が揃うこと。第二に、古民家からホテルまで多様な宿の形態に対応していること。第三に、物語の舞台となったまちを実際に訪れることで、小説と現実が交わる「答え合わせ」の時間が生まれること。

 micro developmentは今回の取り組みについてこう述べる。「物語は、場所の価値をひらく力を持っています。稲取銀水荘さまが大切にしてきた『おもてなし』の心に触れ、その思いを丁寧に物語へと編んでいくことが、私たちの役割だと考えています。」

 同社は「日本中のローカルを、自分らしく生きられる舞台にする」というビジョンのもと、伊豆と渋谷を拠点に地域の事業立ち上げを伴走支援するプロジェクトコーディネートカンパニーだ。地域文化を一方的に消費するのではなく、まちや宿に眠る記憶を丁寧にすくいあげ、物語というかたちで可視化することを大切にした自社サービスとして、2026年7月より『空想旅文庫』を本格リリースしている。

稲取銀水荘の概要

 稲取銀水荘は、静岡県東伊豆町・稲取温泉に位置し、目の前に広がる相模灘の景色とともに、ゆったりとした滞在を楽しめる温泉旅館だ。

 桃山時代を思わせる雅やかな情緒を大切にした館内には全101室の客室を備え、うち17室は自家源泉かけ流しの露天風呂付き客室として、より上質なくつろぎの時間を提供している。全室オーシャンビュー。

 温泉は湯量豊富な自家源泉を使用し、大浴場、露天風呂、サウナを完備する。宿泊者が自由に利用できるラウンジサービス「濤のむこう」では、時間帯ごとに異なるドリンクやフードを楽しみながら、海を望む贅沢なひとときを過ごせる。

 アクセスは、車の場合は厚木ICから約150分。電車の場合は伊豆急行「伊豆稲取駅」から送迎バスで約5分。

 なお、小説の内容、宿泊プランおよび価格等の詳細は、2026年10月頃に発表予定の別途プレスリリースで案内される。

 『空想旅文庫』の公式ウェブサイトはhttps://kuusoutabibunko.jp 、稲取銀水荘の公式ホームページはhttps://www.inatori-ginsuiso.jp/ で確認できる。

 
 

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