東京商工会議所、「国の中小企業対策に関する重点要望」取りまとめ 価格転嫁・取引適正化の定着を最重点項目に据える


 東京商工会議所は7月9日、「国の中小企業対策に関する重点要望」を取りまとめ、公表した。中小企業委員会(委員長:宮入正英副会頭・株式会社宮入代表取締役社長、鰐渕美惠子特別顧問・株式会社銀座テーラーグループ代表取締役会長)が中心となってまとめたもので、「稼ぐ力」強化を支える環境整備と、挑戦する中小企業・小規模事業者の後押しを柱に据えた構成。今後、関係省庁に対して強く働きかけていく方針だ。

深刻化する経営環境 防衛的賃上げが7割超

 要望の背景には、中小企業を取り巻く厳しい経営環境がある。

 東京商工会議所・日本商工会議所が2026年6月に実施した「中小企業の賃上げ・賃金改定に関する調査」によると、2026年度に賃上げを実施予定(実施済み含む)の中小企業は71.3%(前年比+1.7ポイント)にのぼる。しかしそのうち約6割は「防衛的な賃上げ」にとどまっており、深刻な人手不足を背景とした止むを得ない賃上げであることが浮き彫りになった。

 価格転嫁の状況も厳しい。同年6月公表の「東商けいきょう(中小企業の景況感に関する調査)2026年4〜6月期」では、コスト増加分を「4割以上転嫁できている」企業の割合は前年から進展が見られず、足踏み状態が続いている。特に一般消費者向け(BtoC)での価格転嫁が進んでいないことが明らかになっている。

 収益面でも二極化が鮮明だ。2025年12月実施の「中小企業の経営課題に関するアンケート」では、コロナ前後で業況の二極化が顕著になっており、業績回復を果たせない企業の経営はより厳しさを増している。

 中東情勢についても要望は言及している。「中東を巡る情勢は長期化しており、企業活動に広く影を落としている。特に中小企業・小規模事業者の多くは、原材料・エネルギー等のコスト増を価格転嫁しにくい構造的な立場にあり、事態がさらに深刻化すれば事業継続も強く懸念される」と指摘。これを受け、中東情勢の影響を受ける中小企業への対応に関する要望項目も別途盛り込まれた。

最重点項目① 価格転嫁・取引適正化の定着

 要望の最重点項目の一つ目が「価格転嫁・取引適正化の定着」だ。

 「賃上げ・消費拡大の経済好循環に向け、物価上昇を上回る賃上げ原資の確保を、官民挙げて一層強化すべき」との立場から、具体的な要望を列挙している。

 BtoCの価格転嫁については、一般消費者に対して「良いモノ・サービスには値が付く」「適正価格の取引が巡り巡って自らの所得向上につながる」といった認識の浸透が不可欠と強調。政府広報等を通じたメディアによる消費者向け広報の継続・強化を求めた。

 官公需においては、「官公需における価格転嫁・取引適正化加速化プラン」に則った対応の徹底と進捗状況の見える化、地方自治体における措置促進への強力な後押しを新規項目として要望した。

 2026年1月に施行された「中小受託取引適正化法」(取適法)をめぐっては、製造業の企業の声として「完成品を製造販売する中小企業は対象外となっている。取適法対象外の取引についても規制対象にしてほしい」との意見が紹介された。公正取引委員会等の関係省庁と連携した、取適法対象外取引における適正な取引に向けた環境整備・規制強化も要望に盛り込まれた。

 「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(優越ガイドライン)の周知・運用徹底、「パートナーシップ構築宣言」の実効性向上(宣言企業の現場購買担当者への浸透、不適切な対応企業への措置強化等)も求めている。

最重点項目② 健全な新陳代謝に資する環境整備

 二つ目の最重点項目が「健全な新陳代謝に資する環境整備」。事業再生・再チャレンジ・廃業を図る企業への早期支援と、価値ある事業の円滑な承継に向けた支援の2本柱で構成される。

 倒産・廃業の動向について要望は、「資本金や負債額の小規模な事業者の倒産が2000年度以降過去最多となるなど、山積する経営課題に打つ手がなく事業継続を断念する中小企業が相次いでいる」と指摘。中小企業活性化協議会への相談増加にも触れ、早期相談の促進と経営改善支援の強化を訴えた。

 具体的には、金融機関・認定経営革新等支援機関による支援施策の周知徹底、税理士・公認会計士等の専門家による経営改善支援の推進、「経営者保証に関するガイドライン(保証債務の整理)」および「廃業時における経営者保証に関するガイドライン」の周知徹底・活用促進などを要望。廃業に係る心理的障壁の低減として、よろず支援拠点等での相談対応強化、匿名相談やチャットボット等、利用ハードルの低い相談窓口の設置なども新規項目として求めた。

 事業承継については、「2026年度版中小企業白書」によると中小企業の後継者不在率は減少傾向にあるものの、未だ全体の過半を占めており、60歳以上の経営者が全体の約半数にのぼることを指摘。喫緊の課題と位置付けた。

 2018年の創設以来、事業承継税制の特例措置は中小企業の円滑な事業承継に大きく貢献してきたが、時限的な措置であり、2028年1月以降は新たに活用できなくなる。要望では特例措置の恒久化を強く求めるとともに、「長年の経営努力により企業価値を高めた結果、自社の株式評価が高騰し、事業承継が困難な状況に陥っているとの切実な声が、多くの中小企業から寄せられている」として、取引相場のない株式の評価方法の確立を新規項目として要望した。

重点項目 人手・人材不足への4つの対応

 重点項目の第一は「人手・人材不足への対応強化」で、4つのサブ項目から成る。

 デジタルシフトと生産性向上では、印刷業の企業の声として「中小企業がIT導入にあたり必要なのは、導入後実際に稼働するまでの支援。実際に手を動かしてくれる導入コンサルが必要」との意見を紹介。業務フロー・業務プロセスの整理からIT戦略策定まで一体的なハンズオン支援の強化を求めた。

 生成AI活用については、東京商工会議所が2026年6月に公表した調査で8割以上の企業が生成AIを活用していると回答した一方、社内ルールの整備を伴わない運用実態も見られることから、社内規程・ルール整備に向けた施策の推進と、生成AI活用リテラシーの向上を目的とした教育プログラムの創設を要望した。

 「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」についても、正しい理解の促進と実態に即した制度設計・見直しの実施を新規項目として要望した。

 人手・人材の確保・育成では、東京商工会議所が2026年5月に公表した調査をもとに、時間外労働上限規制が事業運営に与える影響として、受注機会の喪失・営業時間短縮による売上減少、管理職・リーダー層への業務負担の増加・業務の偏在などが顕在化していることを指摘。健康確保と労使合意を前提とした時間外労働上限規制の一部例外措置、変形労働時間制の要件緩和等、「働き方改革」の見直しを新規項目として強く要望した。

 外国人材等の多様な人材の活躍推進では、2027年4月から施行される育成就労制度を契機として、必要な外国人材の受入れ拡大と明確なキャリアパス構築を訴えた。一方で、法制度やルールを守らない者への厳格な対応と、「経済社会を共に支え合う存在」としての外国人との秩序ある共生に向けた環境整備も要望。政策立案から実行までの管理責任を持つ「司令塔」の創設と基本法の制定を新規項目として盛り込んだ。

 生産性向上を阻害する納税事務負担の削減では、現在議論されている飲食料品に係る消費税減税について、「中小企業・小規模事業者の価格転嫁を阻害するほか、BtoCの現場における事務負担増・混乱、経理事務の複雑化、外食産業の売上減、飲食料品を扱う業種における資金繰りの悪化等、中小企業・小規模事業者の経営に大きな影響を与える」として慎重な検討を求めた。仮に減税を実施する場合は、価格転嫁の推進、総額表示義務の緩和、レジシステム等の改修費用の補助、特別貸付制度の創設などの措置を講じるよう要望している。

付加価値向上・成長支援の各要望

 重点項目の第二「付加価値向上に向けた取り組みの支援」では、価値共創・DX・AI活用等によるイノベーション創出支援、国内外の販路開拓支援、知的財産の活用促進の3項目を要望した。

 知的財産については、日本商工会議所が2026年2月に公表した調査で、中小企業の約5社に1社が「従業員・役員や退職者に、自社の知的財産や営業秘密を無断で持ち出しされた」「技術やノウハウを不用意に第三者に開示した結果、模倣品が製造・販売された」等の知財侵害行為を受けたことがあると回答していることを踏まえ、知財侵害抑止の強化に向けた制度等の検討を求めた。

 重点項目の第三「成長ステージ・中小企業の役割に応じた支援の強化」では、起業・創業の促進とスタートアップの成長促進、成長志向企業への支援強化、地域経済を支える中小企業・小規模事業者への支援継続・強化を求めた。

 起業・創業については、創業前・創業後1年未満の事業者への資金調達支援として「マル経融資制度の創業支援版の創設」を要望。成長志向企業に向けては、政府が策定を進める「日本成長戦略」における「17の戦略分野」および「8つの分野横断的課題」の取り組みの担い手として中小企業の重要性を明確に位置付けるよう求めた。

 地域経済を支える中小企業・小規模事業者の支援では、マル経融資制度(一般枠)の予算枠の規模堅持と取扱期間の延長、公的支援における専門家謝金の適正な単価設定などを要望した。

中東情勢の影響への対応も別途要望

 中東情勢の影響を受ける中小企業への対応に関しては、別途要望項目として盛り込まれた。

 卸売業の企業の声として「業務用オイルについて、メーカーから全て出荷停止。顧客から引き合いはあるものの商品在庫がなく、売りたくても売れない状況にあり、事業継続は難しい」との声が紹介された。

 要望内容としては、エネルギー・原材料の供給制約や価格急騰の影響を受ける中小企業・小規模事業者に対する資金繰り支援の継続・強化(日本政策金融公庫等のセーフティネット貸付等の要件緩和の継続、マル経融資の優遇金利の適用拡大・特別枠の創設)、事業者の不安解消に向けた迅速・正確な情報提供、官公需における受注者からの申出に応じた契約変更や納期・工期変更等の柔軟な対応、国内サプライチェーンの強靭化に向けた取り組み推進などを挙げた。

 今回の要望は第794回常議員会で2026年7月9日に決議された。東京商工会議所は今後、要望内容が国の中小企業対策に反映されるよう、経済産業省、中小企業庁、公正取引委員会、金融庁、厚生労働省ほか関係省庁に対して強く働きかけていく方針だ。

 
 

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