マガジンハウスが刊行するライフスタイル誌『クロワッサン』7月10日発売号は「郷土を巡る旅。」が特集されています。「知恵が詰まったおいしさに感動。和歌山・宮城、郷土の味を訪ねて。」など、テーマごとにさまざまな旅を提案しています。
私は発売の1カ月半前に「親孝行旅」について取材を受けていました。
事前に届いた質問項目を見ると、「計画する際に心に留(と)めておくこと」や「宿の選び方、昼食や立ち寄り場所の選び方」をはじめ、「アクセスの問題」など、旅を計画する際に必要な要素が並んでいました。
実は、この取材を受ける2日前に、81歳の母と「親孝行温泉」をしていたのです。
行った先は新潟県長岡市の実家からほど近い、寺泊の寺泊海岸つわぶき温泉「住吉屋」です。
母はまだ介護認定を受けておらず、1人で暮らせるほど元気です。ただ階段はゆっくりと昇り降りしますし、段差にはつまずきやすいので、フラットな方がより安心です。
「住吉屋」は各所にちょっとした階段がありましたが、母は私が手をつないでいれば、難なくクリアできました。
階段があってもなお「住吉屋」を選んだ理由は、母が「おしいお魚が食べたい」と望んだからです。
「住吉屋」は創業300余年。北前船の寄港地として寺泊が栄えた江戸時代後期に廻船問屋として開業しました。今では美食の宿として人気を博しています。事実、ホントにおいしかったんです。目の前の寺泊港で取れたタイや、ブリのお刺し身は甘くてとろけそう。ひとり1杯つく紅ズワイガニのうまい味噌(みそ)とみっちりと詰まった身を熱心に食べていると、私も母も無言になりました。
「住吉屋」の源泉は、昭和中期に掘削し、寺泊のいくつかの宿で使用していたものでした。ですが2019年に独自で掘削すると、地下40メートルからナトリウム炭酸水素塩泉が湧出し、現在はそのお湯を提供しています。
チェックイン後に夕食までに2~3回も入浴する私を見て、「私はそんなに入れません。私は81歳です」と主張する母。でも、チェックアウト後は、「昨日までは81歳でしたが、今日は48歳になりました」とにっこり。自分の体が若返ったかのように動くし、軽くなったと喜んでいました。
旅の間中、母はしきりに2021年に亡くなった父の話をしていました。
「お父さんと魚を買いに寺泊に来たよ」「お父さんとこの道を通ったよ」「お父さんが…」と、まるで近くに父がいて、語りかけているようです。
極めつけは、母は父と出会った日をありありと話してくれたのです。どうやらハンサムだった父に母が一目ぼれしたようなのです…。
これらは、母が父との思い出の地を旅しているからこそ、自然と湧き出てきた感情です。
「親孝行旅」とは、親のこれまでの人生をたどりながら、それを子供が感じ、受け取る時間にもなりえるのです。
こうした直近の「親孝行温泉」の実例を挙げながら、その効果や時間の尊さを『クロワッサン』の取材の時に話しましたら、とっても素敵な誌面になっていました。
もちろん国の補助も生かして、観光地や温泉地、宿泊施設のバリアフリー設備が整ってきていることもお話ししました。
読者の皆さんが進めている取り組みを多くの方が利用できるように、これからも私は広く伝えてまいります。
(温泉エッセイスト)




