【観光立国・その夢と現実 76】旅館の三大商品を考える② 小原健史


 料理について、前回に続いて述べたい。私が若い頃の昭和50年ごろの嬉野温泉は山陽新幹線博多開業で連日満員の状況が続き、新館和多屋タワーを黒川紀章の設計で建設した。

 客室は180室へほぼ倍増したが、新幹線ブームの陰りもあり、第1年目から年間売り上げ目標に達しない。勢い、資金繰りが悪化し毎月数百万、1千万円単位で資金が不足する。その後さまざまな苦難を経て到達した復活策が…【大旅館の中に小規模の高級旅館部門の水明荘】であり、開業して大ヒットしたのであるが、その際の料理が、高橋清料理長がつくり上げた「四季三根料理」である。

 その意味は四季折々に、”三根”「素材」「技術」「味」で構成する高度な料理の体系をいう。また、海のモノ、山のモノ、地のモノをうまく使い分け、器の奥手が山のモノ、中ほどが地のモノ、手前が海のモノを使って盛り合わせればバランスの良い料理になり、また、陰陽のコントラストにも気を配ったものであった。 

 料理の器は、嬉野温泉の隣町が世界の陶磁器の街の一角を占める陶都有田でもあることから、酒井田柿右衛門、今泉今右衛門、そして、唐津焼の中里太郎衛門クラスをそろえ、また、古陶磁の染付の古伊万里や、鍋島藩窯様式の器、欧州に何百万点も輸出され戻ってきた色絵の磁器も使って最高級の料理を提供した。 

 海の素材について述べたい。嬉野温泉の位置からして、東に有明海、西に東シナ海、北に玄界灘とそれぞれに異なる多様な素材があり、私が30歳ごろだったかチラシに【三海美味倶楽部】と称してPRしたこともあった。具体的には有明海のカニと海苔(のり)、東シナ海のエビや鮮魚、玄海灘のタイやイカなどである。

 農産物も多彩である。最近では佐賀牛が世界的に有名になり畜産の農家がさまざまな個人的な技を繰り出しておいしい佐賀牛や若楠ポークを生産している。佐賀県中央部の白石町には日本のトップクラスの生産量を誇る”玉ネギ”や”レンコン”があり、この取り立ては筆舌に尽くし難いほどうまい。ミカンやイチゴも伝統的においしいものにあふれている。

 一方、清酒は平成の合併で生まれた嬉野市の地酒でマッカーサー将軍も愛したとう「東長=アズマチョウ」、や東一、そして「虎の児」は、虎は千里を走る故事にならい、そのラベルは宇宙に飛び出した宇宙船にも貼り付けられた。

 それらの清酒の大元は肥前鹿島の酒蔵ツーリズムで、3月の蔵開きを兼ねた日々は県内でも屈指のイベントになっている。

 さらに、嬉野はお茶でも有名であるが、最近は旅館の若手経営者や茶農家の後継者で組織した”ティーツーリズム”のメンバーが茶畑の中の天茶台でサービスする嬉野茶は、何と1杯5千円、近日中にはこれが1杯1万円になるという。当然そこまでのおもてなしに工夫が施されていることは言うまでもない。 

 世の中「お茶ぐらい…」というお茶の価値を認めないかのような風潮があるが嬉野温泉では「お茶ぐらい…」の言葉は止めて、旅館内のお茶は全て有料でそのお茶の売り上げ代金がかなりのものになったとも聞く。

 地元名産の嬉野茶の価値を自ら高めようとする旅館の意識の向上であり、覚悟でもあろう。

 また、”茶輪”という名称で観光サイクリングの自転車にスタバならぬカップの嬉野のお茶を組み込み、茶畑や温泉街を疾走するそのような新しい企画を発するたびに地元を超えて中央の新聞や雑誌、テレビに登場し、航空機の機内誌に登場する嬉野温泉の魅力となっているのは頼もしい限りだ。

 さらに、茶農家の青年たちは農作業の服を脱いで、コックコートに身を包み、東京や大阪、福岡の一流ホテルで嬉野茶のサービスを行う企画も好評だ。自ら育てた茶葉が自らの手で美味なる嬉野茶として提供される。今までの茶産地の歴史にないことが、現在、嬉野温泉では実施されていて、旅館の現場をリタイアした私は感心することしきりだ。

 後半は、私の地元の嬉野温泉の宣伝になってしまったが、嬉野温泉や嬉野茶、そして肥前吉田焼などの若い経営者の奮闘に期待してやまない。

(元全旅連会長)

 
 

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