【本だな】「空飛ぶクルマ」は夢物語ではない――実現可能な近未来を専門家が解説


 成山堂書店は6月28日、交通ブックス315『空飛ぶクルマ 次世代エアモビリティの飛ぶ世界』(鈴木真二・中村裕子 編著、交通研究協会発行)を刊行した。四六判240頁、定価1,980円(税込)。

 新たな空の移動手段として期待が高まる「空飛ぶクルマ」の現状から、世界での開発状況、空を飛ぶためのさまざまな制度、機種や機体の概要、インフラ面など実装に向けた課題までを概観し、「空飛ぶクルマ」の未来を実現するロードマップを各分野の専門家が解説した一冊だ。

「空の移動革命」――夢物語ではない、実現可能な近未来へ

 「空を鳥のように飛ぶ」という人類の夢は、1903年のライト兄弟の飛行によって実現した。しかし、自身の力だけで空を飛ぶ能力は人間には備わっておらず、飛行機で飛ぶ場合であっても高度な操縦技術を訓練によって身につけねばならない。ライト兄弟も飛行機を販売するために、操縦学校を開校する必要があった。

 当時すでに自動車は道路にあふれており、ライト兄弟とともに米国航空のパイオニアであったグレン・カーチスは、自動車に翼を取り付けた空飛ぶクルマ「カーチス・オートプレーン」を開発して、自動車のように「手軽に」空を飛ぶことを目指した。同機は1917年、ニューヨークで開催されたパンアメリカン航空博覧会で展示されたが、アメリカが第一次世界大戦に参戦することになり、実用化には至らなかった。

 1950年代には、米国民間航空局から飛行許可を受け、試験飛行も行い、500機の受注があれば量産化しようとした企業があったが、実際には受注数は半分にも至らず、その夢は途絶えた。自宅の車庫から飛行場までは自動車として運転し、近くの飛行場で主翼や尾翼を取り付けると離陸できる夢の機体は、期待したほどには需要がなかった。

マルチローター型ドローンの出現が転機に

 道路を走る車のように「手軽に空を飛びたい」という夢は、車に翼を付けるというこれまでの方法とは別の方向で新たな進展を見せる。それが、複数のプロペラを電動モーターで駆動する「マルチローター」と呼ばれるドローンの出現だ。

 ドローン自体は、1980年代に日本のメーカーがホビー用に発売したことが発端であったが、当時はリチウムイオンバッテリーや半導体センサーが実用化する前であり、その普及は2010年にフランスのメーカーがホビー用のドローンを発売するまで待たねばならなかった。その翌年の2011年には、ドイツのボロコプター社がドローンを大型化し、操縦者が乗った飛行に成功。世界初の有人電動垂直離着陸機(eVTOL)としてギネスブックに登録された。

 2016年には電動ヘリコプターのような洗練されたeVTOLとして有人飛行に成功し、その後、世界各地で試験飛行が行われた。これが「空飛ぶクルマ」の先駆けとされる。ボロコプター社は2024年のパリオリンピックでの事業化を目指したが間に合わず、予定されていた2025年大阪・関西万博での飛行も辞退した。

 こうした開発の難航が続く一方、同種の機体は現在、世界中で開発が進み、すでに1万機以上の注文を受けている。大阪・関西万博では国産のスカイドライブ社の機体と米国のジョービー・アビエーション社(ジョビー社)の機体が試験飛行を行い、注目を集めた。ドローンのように電動で、遠隔操縦や自動飛行も可能であることから、「空の移動革命」として期待されている。

「航空機」としての現実的な課題

 ただし、「空飛ぶクルマ」は「クルマ」とはいえ、実際には「航空機」である。厳しい安全性の検査があり、操縦免許も必要で、離発着もどこでも可能というわけではない。安全上の要求を満たした専用の離発着場を必要とし、仮想的な空の道も必要になるかもしれない。

 また、現時点での「空飛ぶクルマ」の機体価格はスーパーカーを10台も買える額になると想定される。「空の移動革命」を実現するためには、技術だけではなく、安全制度や市場性はもちろん、騒音問題やエネルギー問題を克服しなくてはならない。なによりも多くの人が「乗ってみたい」「使いたい」と思わなければならない、と編著者は指摘している。

 本書の「はじめに」では、「未来を予測することは難しいが、成功したイノベーターは自ら創出することで未来を作り出した。『空飛ぶクルマ』は夢物語ではなく、実現可能な近未来なのである」と記されている。

9章構成で制度・技術・社会受容まで網羅

 本書は9章構成で、「空飛ぶクルマ」をめぐる広範なテーマを体系的に扱っている。

 第1章「夢実現への道筋と航空文化の創造」では、次世代エアモビリティと空飛ぶクルマの概念を整理したうえで、4つの夢と意義、夢から現実への道筋、そして航空文化の創造について論じる。第2章「『空を楽しむ』未来」では、空への憧れと挑戦の歴史を振り返りつつ、航空スポーツの課題と「空飛ぶクルマ」がもたらす変化を検討する。

 第3章「AAMによる旅客輸送」では、安全・安心・継続というAAM(先進エアモビリティ)旅客輸送の3つの約束、具体的な取り組み、サービスへの適用イメージを解説。第4章「旅客輸送サービス実現を目指す世界のAAMメーカー」では、主なAAMメーカーを紹介するとともに、破綻したドイツの2社から学べる教訓、中国製AAMの日本でのビジネスの難しさについても言及している。

 第5章「重要となる公共性が高い用途――防災・人命救助・メディカルサービス」では、防災・人命救助・メディカルサービスへのAAM適用に関する開発事例と適用イメージ、課題を詳述。第6章「eVTOL利用に向けての航空法課題と展望」では、ICAOの基準を基礎とする「航空法」をはじめ、機体の型式証明、操縦免許・整備士資格、離着陸場(バーティポート)、eVTOLの運航制度、試験飛行、ホビー用航空機といった法制度上の課題を整理している。

 第7章「『空飛ぶクルマ』を飛ばすには――法令と制度から見る」では、空飛ぶモノの分類と現状、飛ばし方、さらには「空飛ぶクルマはパイロットが地上から操縦!?」という問いにも踏み込む。第8章「電動・自律・高密度運航というチャレンジ」では、電動化のメリットへの期待とチャレンジ、自由な空の移動に向けたチャレンジ、高密度化に向けたインフラ面のチャレンジ、そしてAAM実現に向けた方向性を示す。第9章「空飛ぶクルマで近未来を拓くために」では、未来のショーケースとしてのAAM、試験飛行からその先への社会受容の観点、そしてAAMを育てるための「共創と時間軸の視点」を論じている。コーヒーブレイクとして「街づくりとAAM」も収録されている。

編著者・執筆者

 編著者の鈴木真二(すずき しんじ)氏は、東京大学未来ビジョン研究センター特任教授。岐阜県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修了後、株式会社豊田中央研究所を経て1986年に工学博士を取得し、東京大学助教授、1996年に教授。2019年に定年退職後、東京大学名誉教授ならびに現職。専門は航空機力学、無人航空機、航空イノベーションなど。国際航空科学連盟(ICAS)会長、日本航空宇宙学会会長などを歴任し、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)理事長、福島ロボットテストフィールド所長、日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)代表などとして、ドローン産業の育成・人材養成・制度設計などに貢献している。著書に『飛行機物語』『落ちない飛行機への挑戦』などがある。本書では「はじめに」および第6章を担当した。

 もう一人の編著者、中村裕子(なかむら ひろこ)氏は、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻特任研究員。愛知県生まれ。東京大学工学部システム創成学科知能社会コース卒業後、フランス・エコールセントラルパリ生産システム特別修士および東京大学工学系研究科環境海洋工学修士を修了。日産自動車株式会社にて新型車の商品企画に携わったのち、東京大学総括プロジェクト機構航空イノベーション総括寄付講座特任研究員。2013年に東京大学工学博士(技術経営戦略)を取得し、特任助教、2019年に特任准教授。2023年~2024年は総合研究奨励会在籍。現在は現職にて、航空の低炭素化技術、ドローン安全リスク管理、次世代エアモビリティの社会実装に関わる研究やコンソーシアム活動を行っている。一般財団法人総合研究奨励会・日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)事務局次長、一般社団法人日本航空宇宙学会第58期広報理事、JARUS(Joint Authorities for Rulemaking on Unmanned System)ISB SRM-WGメンバー、エアモビリティ自治体ネットワーク(UIC2-Japan)発起人なども務める。編著に『ドローン活用入門:レベル4時代の社会実装ハンドブック』(東京大学出版会)がある。本書では第1章、第8章、第9章を担当した。

 執筆者の奥田章順(おくだ あきのぶ)氏は、株式会社航想研代表取締役社長。兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部理工学研究科修士課程修了後、株式会社三菱総合研究所(1983年4月~2018年3月)、北陸先端科学技術大学院大学客員教授(2004年~2017年)を経て、2018年6月に株式会社航想研を設立。現在は公益財団法人航空機国際共同開発促進基金理事も務める。専門は航空宇宙産業等の技術評価、市場分析・予測、事業性評価、戦略構築等のコンサルティング。本書では第3章、第4章、第5章を担当した。

 山下祐作(やました ゆうさく)氏は、AeroDyne株式会社代表取締役。神奈川県生まれ。パーデュー大学工学部航空宇宙工学科修了後、株式会社本田技術研究所にて二輪車・電動モビリティ・航空機の研究開発に従事(2006年10月~2013年8月)、BMW Group Japanにてシニアリサーチャー/スタートアップガレージ日本担当(2013年9月~2024年9月)を経て、現在はライトスポーツ航空機(LSA)、試験開発用航空機(エクスペリメンタル航空機)、無操縦者航空機、航空機による新事業開発コンサルティングを行うAeroDyne株式会社を設立。エクスペリメンタル・スポーツ航空機連盟理事および国際航空連盟(FAI)エクスペリメンタル航空機委員会(CIACA)日本航空協会選任委員も務める。本書では第2章、第7章を担当した。

 虎谷大地(とらたに だいち)氏は、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所電子航法研究所主任研究員。大阪府生まれ。2011年横浜国立大学工学部卒業、2016年同大学大学院環境情報学府博士課程後期修了。博士(工学)。2016年より現職。2025年より東京海洋大学客員准教授も務める。最適制御、数値シミュレーション、システムズアプローチを専門とし、主に航空交通管理、次世代航空モビリティを対象に研究開発に従事している。本書では第8章を担当した。

 協力者として、岩本学(いわもと まなぶ)氏が名を連ねる。株式会社日本政策投資銀行参事役。東京都生まれ。カナダ・マギル大学経済学部卒、大阪大学大学院国際公共政策研究科博士前期課程修了。2012年に株式会社日本政策投資銀行に入社後、主に航空・航空機産業向けの投融資や調査業務を担当。2019年より、空飛ぶクルマやドローンなどの次世代エアモビリティの社会実装や産業振興に取り組み始め、国の委員会や複数の自治体で委員・アドバイザーを務めている。


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