中国の上海でカフェに入った。日本語通訳の女性と2人でコーヒーを頼み60元(約1200円)。100元札を出し、お釣りをもらおうとしたら現金がないと言われた。通訳の女性に両替してほしいと頼んだが、彼女も現金を全く持っていなかった。それどころか財布さえ持っていないのには驚きだった。同行してくれたのは5日間だったにも関わらずだ。結局、支払いは店員が近くのコンビニまで走り、両替をしてお釣りを調達してきた。
なぜかというと、スマホ1台あれば全てが事足りてしまうからだ。飲食店などの支払いをはじめ、高速鉄道(新幹線)や地下鉄、タクシー、観光施設への入場料なども全てスマホによる決済だった。
タクシーに関しては、スマホの配車アプリを使い呼び出した。流しのタクシーはほとんど見かけない。個人が配車サービス会社に登録し、マイカーで営業しているケースが多く、アプリで乗車場所と時刻を予約すると迎えに来てくれる。一般のタクシーのように車体に会社名は書いていないが、車の色とナンバーが伝えられているから、乗り間違うことはない。あと何分で到着するというのも分かる。支払いは事前にアプリで済ませており、便利で安心だ。
高速鉄道の上海南駅からホテルまで利用した。日本の駅や繁華街などでよく見かけるタクシー乗り場はなかった。スマホの呼び出しで次々と車がやってくる一角があり、続々と客を乗せていく。
こうしたスマホによる予約と決済、キャッシュレス化は中国に限ったことではない。韓国でも現金を使う機会は少なく、コンビニでペットボトルの水1本買うにもクレジットカードで買うことができた。暗証番号の記入なしだった。
一方、日本ではまだまだ現金のみというケースも多い。ランチタイムの少額の支払いは、「現金でお願いします」の貼り紙を見かける。筆者を含め利用者のなかには千円未満の支払いに忙しい時間帯にクレジットカードを使うのは気が引けるし、暗証番号を入力するのは面倒と思う向きも多いはずだ。
各種の調査によると、外国人が日本を旅して困ることの上位は多言語表示の不足やコミュニケーションの難しさ、ゴミ箱が少ないなどに加え、キャッシュレス化が進んでいないことが挙げられる。自国以外の海外での支払いは、お札と硬貨を数えて渡すのは時間がかかるし、時には間違いもある。筆者は都内の店で、外国人が手のひらにお札と小銭を乗せて、店員に見せ必要額を受け取ってもらう光景を一度ならず目にした。
経済産業省はキャッシュレス決済比率を2030年までに65%にするという中間目標を掲げている。2025年のキャッシュレス決済比率は58.0%と伸びている。しかし、前述の韓国、中国の90%、80%台にはるかに及ばない。詳しくは知らないが、キャッシュレス化は導入に費用が生じる。決済会社への手数料の問題もあるだろう。ただ、利用者の利便性向上と施設側の人手不足対策としては有効だ。
海外を訪れるたびに、驚くことは多いが、キャッシュレス化もその一つだ。しかも時間を追ってどんどん進んでいる、そのスピード感にもびっくりする。
(日本旅行作家協会常任理事、元旅行読売出版社社長)




