【口福のおすそわけ601】丘の上のウイスキー蒸留所~前編~ 竹内美樹


 前回まで、小諸市のワイナリー・レストランについてご紹介したが、実は小諸に出向いたのは、ウイスキー蒸留所見学のためだった。その名も「小諸蒸留所」。小高い丘の上の瀟洒(しょうしゃ)な建物に入り、受付で予約名を告げ奥へ。ガラス越しに見える蒸留設備でひと際目を引くのは、大きな銅製の蒸留器「ポットスチル」。コレで発酵液を加熱し、アルコール蒸気を発生させ、冷却して液体化するのだ。

 まずはウイスキーの基礎について。ここで造られているのはシングルモルトウイスキーで、その原料は大麦と酵母、そして水というシンプルな物だということや、「ニューメイク」と呼ばれる出来たてのウイスキーは無色透明で、樽(たる)熟成を経てあの琥珀(こはく)色に変化するということなど解説を受けた後、ヘルメットを被り、いざ蒸留施設内へ!

 モルト(麦芽)とは、大麦を発芽させた物。そのままでは発酵しづらいが、発芽によって酵素が働き、デンプンが糖化しやすくなるそう。この糖を酵母が発酵させ、アルコールが生まれるという。モルトは巨大な機械に入れられ、「マッシュタン」と呼ばれる糖化槽に進み、温水と混ぜられておかゆ状になり、糖がゆっくり抽出される。そして液体だけを取り出し発酵へ。同所で使用される発酵槽は、品質が安定しやすいステンレス製と、微生物由来の個性的な味わいが出る木製の2種類。ブクブクと泡を立てながら発酵している様子も見せていただき、大興奮!

 その後蒸留へ。二つのポットスチルを通り、アルコール度数が約7%から65~70%まで高まる。この時流れ出る液体を、三つに分けるという。最初の「ヘッド」は刺激が強く、最後の「テール」は雑味があるため、「ハート」と呼ばれる真ん中の良い部分だけを使ってウイスキーを造るそう。その後オーク樽などに詰め、最低3年熟成させ完成。

 日本が世界に誇れるウイスキーを造りたいという情熱に突き動かされ、同所を経営する軽井沢蒸留酒製造株式会社社長島岡高志氏が、小諸の地に蒸留所を作る決意をしたのが2019年。森に囲まれ、スコットランドに近い気温で、ウイスキー造りに最も重要な水に恵まれていたのだ。ここで使われるのは、浅間山の伏流水。活火山である浅間山の地下で長時間ろ過されることで、クリアな水質になり、ウイスキーも雑味がないクリアな味わいになる。また、火山由来のミネラルにより、酵母が活動しやすい。

 そして、世界的なブレンダー、イアン・チャン氏が共同創業者に加わり、準備は整った。だが、急傾斜地による難工事やコロナ禍の拡大、円安による建築資材の高騰など、いくつもの困難が待ち受けていたという。それらを乗り越え、蒸留所が竣工したのは、奇しくもジャパニーズウイスキー生誕100周年に当たる2023年。3年の熟成を経た今年末、いよいよファーストリリースが予定されており、待ち遠しい。

 見学後のテイスティングセミナーの様子は、次号にて! お楽しみに♪

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
 
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