地域を流れる川を「みんなの共有資源(コモンズ)」として捉えなおす——。
近年、環境危機を打開する社会改革のキーワードとして、「コモンズ」という概念への関心が日本でも急速に高まっている。その潮流のなかで、川というきわめて身近な存在を軸に据え、地方再生のビジョンを描いた一冊が登場した。
「川への恋心を綴ったラブレターであり、川から始まる地方創生の処方箋でもある。川なくしては地方創生は語れない」——株式会社さとゆめ代表取締役・嶋田俊平氏がそう推薦するのが、本書『川から始める地方再生 リバーブランディング』だ。
広告マンが川に目覚めた理由
著者の水谷要(みずたに よう)氏は、1956年東京生まれ、慶應義塾大学卒業。広告会社にて家電や食品企業への営業企画を長年手がけてきたが、定年前に退職。人生のセカンドステージを「川をよくする活動」に費やすべく、日本全国の川を巡り歩いた。
そこで目の当たりにした現実は衝撃的だった。
本来は地形にそって蛇行するはずの川が、治水を目的とした直線化や横断構造物の設置によって、至るところで大幅に改修されていたのだ。中小河川の多くが荒れている——その事実が、水谷氏を川の再生へと突き動かした。
2016年、NPO法人ウォーターズ・リバイタルプロジェクトを設立。河川の保全活動を通じて自然環境を改善し、人と自然が調和した地域づくりに取り組んできた。現在は自治体や協議会、民間企業とも連携し、グリーンツーリズムの企画開発、観光インフラの整備、絶滅危惧生物の発見・保護、農産物・海産物の食品開発まで、多彩な活動を展開している。
「カワイイ川」が地方を救う
本書の核心にあるのは「リバーブランディング」という戦略的な概念だ。
川を中心にした持続可能な産業資源化によって地域を再生すること——科学技術ジャーナリストの赤池学氏が提言した、このワードが本書全体を貫くキーワードとなっている。
「生命地域主義の原点は、豊かな森と海を里に繋ぐ河川。護岸や利水を超えたリバーブランディングが地域の六次産業化と観光振興を図る地方創生の礎だ」(赤池学氏)
本書の第2章では「カワイイ川の事例」として、全国各地の魅力的な川が紹介されている。高知県と徳島県の県境を流れる野根川、縄文文化とカワシンジュガイで知られる岩泉の安家川、北海道南西部の朱太川、琵琶湖に注ぐ安曇川……。さらには南フランスの川・ニーヴ・ド・ベエロビを取り上げ、グローバルな視点での地方創生にまで踏み込む。
それぞれの川が育んできた歴史・文化・生態系が、いきいきと描き出される。
地球温暖化と人口減少、二つの危機に川が応える
「地球温暖化は待ったなしの状態です。気温や水温の上昇による環境変化は、すでに私たちの生活のなかで頻繁に起こっています」と、著者は「はじめに」で語る。
地球温暖化と同時進行する人口減少——この二つの危機を乗り越えるカギとして、本書が提示するのが「生命地域主義」と「自然資源の共有の精神にもとづいた地方創生」だ。
自己所有的な独占が限界を迎えた今、「所有」から「共有」へ——その発想の転換を、川というコモンズを起点にして実践的に探求している点が、本書の最大の読みどころである。
活動記録であり、心意気の表明でもある
第3章「人と地域と川」では、森林と河川の関係、自然が持つ「もとに戻る力」、タテ・ヨコ・垂直方向の生態系の連結など、自然科学的な視点からも川の本質に迫る。終章「川は地域の人たちのコモンズ」では、本書が伝えたいメッセージが凝縮されている。
付録の「川検定」問題と解答も収録されており、川の知識を楽しみながら深められる工夫も嬉しい。
本書は単なる理論書ではない。10年にわたる現場活動の記録であり、川と地方再生への水谷氏の熱い心意気の表明でもある。
読み終えたとき、あなたのそばを流れる川が、きっと違って見えるはずだ!

四六判 242ページ、定価2,200円+税。
発行=BMFT出版部。




