私の視点 観光羅針盤
2025年のインバウンド(訪日外国人旅行者)が4268万人に達し、インバウンド消費額が9兆4549億円に達して、共に過去最高となっている。
政府は日本の魅力・活力を次世代にも持続的に継承・発展させていく観光を目指して「第5次観光立国推進基本計画(26年度~30年度)」を今年3月に閣議決定している。数値目標は30年のインバウンド6千万人、消費額15兆円であるが、観光を「地域経済や日本経済の発展をリードする戦略産業」と位置付け、(1)インバウンドの戦略的誘客と住民生活の質の確保との両立、(2)国内交流・アウトバウンド拡大、(3)観光地・観光産業の強靭(きょうじん)化などが目指されている。
米国とイスラエルによるイラン攻撃によって中東有事が生じており、ホルムズ海峡封鎖の影響で原油価格が高騰している。本紙4月13日号で既報の通り、既に宿泊業に大きな影響が生じており、自助努力の限界を超えているために経営者から行政への要望((1)エネルギー費用に対する直接的な補助金、(2)省エネ設備投資への助成拡充、(3)観光地全体のインフラ支援)がトップ記事になっている。
1970年代にも中東紛争で数次のオイルショックが生じたが、今回の「令和のオイルショック」は最悪の事態を引き起こすことが危惧されている。
原油精製で得られるナフサは多様な用途があるが、特に緊急性の高い医療機器(手術や人工透析関連など)の供給が滞ると患者の生命が脅かされることになる。医薬品の原料になるメタノール(中東で液化天然ガスから合成)もホルムズ海峡封鎖で出荷が滞っている。
「令和のオイルショック」が長期化することによって食糧危機の発生も危惧されている。専門家によると、食糧危機の起点になるのは肥料問題とのこと。日本は化学肥料原料のほぼ全量を輸入に依存しており、肥料価格高騰は農家に大きな影響を与える。同様に畜産・酪農・養魚の飼料も輸入依存だ。そのため、国産の穀物・野菜・肉類・乳製品の生産低下による食糧危機が危惧されている。オイルショックは木造住宅建設にも影響を与える。建築用木材は必ず乾燥が必要であるが、石油高騰は木材価格の高騰につながる。日本は製材の多くを欧州から輸入しているが、円安のため価格が高騰している。
航空燃料価格も高騰しており、航空運賃値上げや減便などが生じている。国内の地方空港では航空燃料の供給不足が深刻化しており、国際線の就航見送りが相次いでいる。燃料輸送インフラの人手不足が主な原因といわれている。
いずれにしても、令和のオイルショックは長引く可能性があり、諸物価の連鎖的な高騰によって庶民の家計は非常に厳しくなっている。私のような高齢者は宿泊費や交通費の値上がりによって、健やかな気分で国内旅行を楽しむことができなくなっている。
日本では20世紀以降に社会インフラ、産業、エネルギー供給などの大部分を石油に依存してきた。石油はエネルギー効率が極めて高いために大量生産・大量消費型の資本主義社会を支えてきたが、令和のオイルショックをきっかけにして、日本の未来を国民一人一人が真剣に考え直す必要があるだろう。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)




